介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算について
介護職員の給料は他の業界に比べると非常に安く、これからの高齢社会で介護職員の数が必要なのににも関わらず、なり手がいない・・・すぐに退職してしまう・・・という問題点があります。
そのため、国としては介護職員処遇改善加算と呼ばれる介護職員の給料を上げる取り組みをしてきました。また、2019年10月から新しい介護職員等特定処遇改善加算という加算も開始されることになり、更に介護職員の給料は上乗せされることが予想されます。
「介護職員の給料が8万円上がる!!」なんていわれていますが、実際はどうなのでしょうか?本当に上がるのか、それとも上がらないのか・・・そのあたりの実情をお話しようと思います。
そのためにはまず
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
について探っていきましょう!!
介護職員処遇改善加算について
事業者が介護職員処遇改善加算を取得するためにはキャリアパス要件と職場環境等要件を満たす必要があります。どのような事業者でも介護職員処遇改善加算を取得することが出来るわけではありません。
キャリアパス要件について
キャリアパス要件はⅠ~Ⅲの3つの種類があります。Ⅲが一番満たすのが難しくなっています。
キャリアパス要件Ⅲについては、介護職員の定期昇給について条件を満たしておかなければいけません。例えば、昇給をどのように判定するのか仕組みがきちんと出来上がっていることが挙げられます。
勤続年数や経験年数によって昇給するのか、介護福祉士などの資格を取得していれば昇給するのか、人事評価や実技試験のような客観的な評価基準がきちんとさだめられているのかどうかが要件となります。
また、これらの昇給についての仕組みは就業規則などできちんと記載されている必要があります。
キャリアパス要件Ⅲは、昇給に対して法人としてきちんと取り組んでいるかどうかが、重要な判定基準となります。
キャリアパス要件Ⅱについては職員の技能向上のために、きちんと研修等を整備しているかどうかをみられます。介護職員と意見を交えて、OJTやOFF-JTなどの研修指導を実施しているかどうか、資格の取得支援のために交通費や受講料の支給、シフト調整をしているかどうかが判断基準となります。
また、これらの基準は全ての介護職員に周知していることが条件となります。
キャリアパスⅠに関しては、介護職員を採用する際の、職位や職責、職務内容を明確に定めていることが条件です。また、その職位や職責、職務内容に応じた賃金設定をしていることも条件であり、そのことを就業規則などに示さなければいけません。
職場環境等要件について
職場環境等要件は、簡単にいうと介護職員が働きやすい環境を整えているのか、キャリアアップに向けた資質の向上を出来る環境に整えているのかどうか確認されます。どのような要件があるのでしょうか?
介護職員は専門職ですので、日々勉強をしていく必要があります。勉強をするためには新たな資格を取得したり、研修を受講する必要があります。こういった資質の向上に対して事業所がどの程度支援しているのか、支援していないのか、といった部分が判断されます。
また、人事ローテーションをしたり、制度を構築して研修を実施したりしているのかどうかも見られます。
職場がどの程度働きやすい環境なのか、現在の介護職員の処遇が改善される仕組みをとっているのか判断されます。例えば、安全衛生がきちんとされているのか、ICTを積極的に取り入れて職員の負担軽減に努めているのか、腰痛軽減のためのロボット導入、育児休業制度があるのかどうかも判断基準となります。
職員のためにどの程度、事業所が努力をしているのかが判断材料となります。
その他では、情報公表制度を活用して経営の「見える化」をしているいのか、新卒研修だけではなく中途採用者でも研修を受けれるようにしているのかどうかなども見られます。
他には、障害者でも働ける職場環境の構築をしているのかなどもチェックポイントです。
以上が介護職員処遇改善加算を取得するための要件になっています。あまり知らない人も多いと思いますが事業者からすると意外と取得への道のりは大変だということが分かります。
なぜ先にキャリアパス要件と職場環境等要件を説明したかというと、それはどの要件を満たすかによって介護職員処遇改善加算の種類が変わるからです。
介護職員処遇改善加算はⅠ~Ⅴに分類されていまして、ⅠとⅤでは加算額が天と地ほど違ってきます。Ⅰ~Ⅴまでの取得要件と介護職員がどの程度給与が上がるのか(あくまで目安)を見ていきましょう。
介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅴと加算額の目安
このように加算の取得難易度によって、それぞれ加算される月額金額が異なります。
注意してほしいのですが、この金額についてはあくまでも目安で実際は異なります。
厚生労働省のイメージとしては以下のように経験、スキルによって給料が上がることを想定しています。経験、資格、評価によって給料の差評価を変えて、それに合して給料を変えることを想定しているわけです。
- 0年~3年 月額28万円
- 3年~6年 月額32万円
- 6年以上 月額36万円
- 資格なし 月額28万円
- 介護福祉士 月額32万円
- 事業者がしているする資格を取得 月額36万円
- B評価以下 月額28万円
- A評価以上 月額32万円
- S評価以上 月額36万円
処遇改善加算Ⅰの加算月額37000円だが、実際はそんなにもアップしない
介護職員処遇改善加算Ⅰを算定している事業所でも、実際働いている事業所の職員の給料はそこまでアップしていません。
基本的に介護職員処遇改善加算は事業所にお金が渡ります。それを介護職員で分配する形になります。
例えば、10人の介護職員が働いている事業所に37万円の介護職員処遇改善加算が入ったとします。その場合は37万円÷10名で一人当たり37000円の介護職員処遇改善加算を配ることが出来ます。
しかし、100名の介護職員がいる事業所に対して37万円の介護職員処遇改善加算の場合は、一人当たり3700円しか受け取ることが出来ません。
また、事業所によっては既に高水準の給料体系をしている場合や、昇給がきちんと行われている事業所で働いている介護職に対しては非常に安い介護職員処遇改善加算しか入らないのが現実です。
介護職員等特定処遇改善加算について
2019年10月の消費税増税に伴って、介護職員等特定処遇改善加算が新たに設けられることになりました。
現在の介護職員処遇改善加算と比べるとどのような部分が異なるのでしょうか?
現在の加算に上乗せされる
介護職員等特定処遇改善加算のイメージとしては、現在の介護職員処遇改善加算に上乗せされる形となります。介護職員処遇改善加算のⅠ~ⅢにそれぞれⅠとⅡが上乗せされるような形になります。
介護職員等特定処遇改善加算のⅠとⅡではⅠの方が高く、取得が難しくなります。
加算率について
介護職員等特定処遇改善加算はサービス区分によって加算率が異なります。
例えば、訪問介護であればⅠで加算率が6.3%、Ⅱで加算率は4.2%と2%ほどの差があります。特定施設入居者生活介護であれば加算率はⅠで1.8%、Ⅱで加算率は1.2%と0.6%しか差がありません。
それぞれのサービス区分によって大きな差がありますので注意しておきましょう。
Ⅰの取得の難しさ
Ⅰは取得は難しいです。
Ⅰの条件としては
サービス提供強化加算か特定事業所加算、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算のいずれかを取得していることが条件
となっています。
これらの加算は一般的には取得が難しいとされており、介護福祉士の配置や、一定の入居者条件を満たさないといけないという困難さがあります。
例えば、
入居継続支援加算は特定施設入居者生活介護で実施されている加算ですが、これは入居者の条件として痰吸引、もしくは胃ろうの方が全体の15%以上いなければいけないことが条件となっています。つまり、施設側がいくら努力をしても入居者の条件が揃わないと取得できない加算がある難しさがあるのです。
またサービス提供体制強化加算についてですが、こちらは一定数以上の介護福祉士取得者がいないと算定できないので、ハードルは高いといえます。
一方でⅡの取得条件は特にありませんが、経験や技能のある介護職員のグループを設定しなければいけません。これは、その名の通りで、ある程度規定を決めて良い介護職員像を設定しなければいけない難しさがあります。
介護職員は処遇改善加算で本当に月に8万円も上がるのか?
介護職員処遇改善加算、介護職員等処遇改善加算を説明しましたが、気になるところは実際に8万円も給与があがるのか?!というところ・・・。
厚労省の見解では経験年数10年以上の介護福祉士等は月に8万円の処遇改善があると、介護職員等特定処遇改善加算で発表していますが、実際のところは月に8万円上がることは稀であるといえます。
年収440万円が厚労省が求めるリーダー級の介護職員の給料です。つまり現在すでに年収440万円以上ある場合は処遇改善として増額することが出来ないのです。勤続年数が10年以上になりますと、440万円以上の年収を確保している職員も実は多いためです。
また、今回から他の職員も対象となりました。介護職員のみを増額するのか、他の職員も増額するのかということは事業所の采配に任されます。
事業所としては、不平不満が出るため、出来るだけ他の職員にも増額を行うことが予想されるため、月に8万円増額されるというのはあまり現実的ではないといえます。
介護職員等特定処遇改善加算は介護職員の定着になるのか
介護職員等特定処遇改善加算は介護職員の給料を上げるとともに、きちんと介護職員を評価するシステムを作ることを求めています。評価をして、それに準ずる程度の技能があれば給料が上がっていくというシステムです。
介護職の離職率が高い理由として、給料が安いということもそうですが、それ以上に自分が行った仕事に対して評価がないという問題点がありました。いくら仕事をして頑張っても、さぼっている職員と同じような給料ではやる気も下がってしまうでしょう。
そういった現状も踏まえると介護職員等特定処遇改善加算は現在の介護職員の働きにくさを解決してくれるものかもしれません。
最後に
介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算について説明してきました。上記でもお話したとおり、実際は給与が8万円上がることは稀なことで難しいのが現状です。
ですが介護職員の給与も昔に比べれば少しづつ改善はされてきていますし、かなりの給与をもらえている人もいます。(ひどいところもまだまだあります)
介護職として働いている方は自身の働いている法人がどのような加算を取得しているのかを知っておくのが良いと思います。これから働きたい方は、やはり介護職員処遇改善加算Ⅰを取得している体制のしっかりしている事業所で働くことをお勧めします!