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【訪問介護向け】身体拘束等の廃止・適正化の研修資料|そのまま使える実践テキスト

身体拘束等の廃止・適正化研修資料

高齢者虐待防止や身体拘束等の廃止・適正化は、介護に携わる私たちの職業倫理と、利用者の尊厳に直結する極めて重要なテーマです。

現在の訪問介護において、高齢者虐待防止研修は年1回以上の定期的な実施が義務付けられている一方、身体拘束等に関する研修には実施義務がありません。ですが、介護サービス情報公表制度の報告項目には位置づけられており、事業所としての姿勢が問われる重要な取り組みと言えます。

そこで今回は、訪問介護事業所内で実施する「身体拘束等の廃止・適正化に関する研修」の資料として、そのまま使える記事を作成しました。

身体拘束等の定義や基礎知識をはじめ、緊急やむを得ない場合の3要件や手続き、さらには訪問介護の現場に潜む無意識の制限に気づき、チーム全体で適正化に向けたケアを実践するための視点まで、幅広く学べる構成にしています。ぜひご活用ください。

 

「身体拘束なんて自分たちには無縁だ」と感じている方もいるかもしれません。ですが、ヘルパーさんが咄嗟にとった行動が、良かれと思った声かけが、実は身体拘束に該当しているといったケースもしばしばあります

 

ですので、何が拘束にあたるのかをスタッフそれぞれが理解しておく必要がありますし、自らのケアを客観的に振り返り、チームで共有することが重要です。その際の一助として本記事を使ってもらえたらなと思います。

 

 

第1章:身体拘束等の基本知識

本章では、身体拘束等の基本的な定義や具体的な行為について確認するとともに、その根本にある「尊厳の保持」という考え方について学びます。拘束が利用者や現場にもたらす重大な弊害と悪循環について正しく理解し、スタッフ全員で共通認識を持つことが、廃止・適正化への第一歩となります。

 

身体拘束等は「原則禁止」されている

「身体的拘束等」とは、介護保険法に基づく運営基準(基準省令)上、「身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為」を指します。

これらの行為は、利用者または他の利用者等の生命または身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、原則として禁止されています。これは施設サービスに限らず、在宅サービスを含むすべての介護サービスに適用される規定です。

そして、介護保険法第1条(目的規定)には、高齢者の「尊厳の保持」と「自立支援」が定められています。身体拘束等は、本人の行動の自由を制限し、この尊厳を大きく損なうとともに、自立を阻害する行為でもあります。たとえ認知症等で自分の意思を十分に表明できない状態であっても、一個人として尊重し、自立したその人らしい生活を支えるケアを確立することが私たちには求められています。

 

「身体拘束」に該当する具体的な行為

ある行為が身体拘束等に該当するかどうかを判断する上で最も重要なポイントは、「本人の行動の自由を制限しているかどうか」です。これまで示されてきた身体拘束廃止・防止の対象となる具体的な行為として、以下のような例が挙げられます。

  • 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
  • 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
  • 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
  • 脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  • 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  • 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

※「身体拘束ゼロへの手引き」(平成13年3月 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」)より抜粋

 

これらはあくまで例示です。

あてはまらないからといって身体拘束に該当しないわけではありません。

 

身体拘束等がもたらす「3つの弊害」

身体拘束等は高齢者の尊厳を害し、自立を阻害するなどの多くの弊害をもたらします。

具体的には大きく以下の3つに分類されます。

身体的弊害 身体拘束は、関節拘縮や筋力低下、四肢の廃用症候群といった身体機能の低下や、圧迫部位に褥瘡が生じる原因となります。また、食欲の低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下といった内的弊害も引き起こしかねません。

さらに、拘束から逃れようとして無理に立ち上がったり柵を乗り越えようとしたりすることで、転倒や転落、窒息といった重大な事故を発生させる危険性も高まります。

精神的弊害 拘束される本人は、縛られる理由も分からずに人間としての尊厳を深く傷つけられます。その結果、不安や怒り、屈辱、あきらめ等の強い精神的苦痛を感じ、認知症の進行やせん妄の頻発につながっていく恐れがあります。

拘束されている本人の姿を見た家族に対しても、大きな精神的苦痛や混乱、罪悪感を与えるという点も深刻な問題です。

社会的弊害 身体拘束による本人の心身機能の低下は、その人のQOLを低下させるだけでなく、更なる医療的処置を生じさせ、経済的にも影響を及ぼします。

その他、事業所に対する社会的な不信や偏見を引き起こすことや、そこで働くスタッフ自身の士気の低下にもつながるということを忘れてはいけません。

 

身体拘束を行うことで、負のループに陥る危険性があることを理解しておきましょう。

体力が衰えている高齢者を拘束すれば、ますます体力は衰え、認知症の方であれば進行を早めてしまう場合があります。その結果、BPSD(認知症の行動・心理症状)が増悪し、せん妄や転倒などの二次的・三次的な障害が生じかねません。そして、その状況に対応するために「更なる身体拘束」を必要とする事態が生み出されてしまうのです。

 

第2章:緊急やむを得ない場合のルールと手続き

本章では、例外的に身体拘束等が認められる「緊急やむを得ない場合」の条件と、その際の手続きについて確認します。訪問介護の現場において、どのような手順を踏むべきか、また記録をどう残すかというルールを正しく理解し、組織全体で取り組む体制を整えましょう。

 

緊急やむを得ない場合の3要件

身体的拘束等は、あくまで「本人の尊厳を守るため」に、以下の3要件をすべて満たし、適正な手続きを経た場合にのみ例外的に認められます。

切迫性 本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
非代替性 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
一時性 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

 

実際の現場では、の3要件を、拘束を正当化するための免罪符のように安易に当てはめてしまうことがありますが、これは非常に危険です。拘束が本当に問題解決の手段として適切か、他にアプローチできる方法はないのかを常に、そして慎重に検討する必要があります。

 

また、「緊急やむを得ない場合」の適正な手続きを経ていない不当な身体拘束等は、法に明記されていないものの原則として高齢者虐待(身体的虐待等)に該当する行為とみなされます。

 

やむを得ず制限を行う場合の具体的な手続き

訪問介護においては、ヘルパー個人の判断で拘束を始めてはいけません。迷う場面や危険を感じる場面があった場合は必ずサービス提供責任者等へ報告し、組織として以下の4つの手続きを極めて慎重に行う必要があります。

 

① 本人・家族、関係機関全員での検討

「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかの判断は、事業所全体として行えるよう、あらかじめルールや手続きを定めておきます。具体的には、サービス担当者会議やカンファレンスなど、本人や家族、関係する事業所などが幅広く参加する会議体で検討を実施します。

また、開始時だけでなく、「どういう状態になれば解除するのか」という解除の要件についても、事前にこの場で組織的な取り決めをしておきましょう。

 

② 3要件と照らし合わせた慎重な検討

そもそもの大前提として、「切迫性」「非代替性」「一時性」をすべて満たすケースは極めて少ないということを、関係者全員の共通認識としておく必要があります。

検討にあたっては、対応するスタッフや、在宅で介護を担う家族の精神的負担や安全面にも十分に配慮します。特に在宅介護の場合、家族は必ずしも介護の専門知識を有しているわけではないため、「本当に他に代替できる方法はないのか(非代替性)」については、家族の状況にも考慮しつつ、専門職が中心となって徹底的に検討を行いましょう。

 

③ 本人や家族に対する詳細な説明

身体拘束の内容、目的、理由、拘束の時間や期間等をできる限り詳細に説明し、十分な理解を得るよう努めます。誰が説明するのかを事前に取り決めておき、仮に契約時などに事前説明をしていたとしても、実際に拘束を行う時点において必ず個別に説明を行ってください。

認知症等により言葉でのコミュニケーションが難しい場合でも、本人には意思決定能力があるという前提に立ち、身振り手振りや表情の変化を意思表示として読み取る努力を最大限に行うことが不可欠です。また、説明にあたっては本人を支援する家族の苦悩や気持ちにも寄り添い、十分に配慮する必要があります。

 

家族への説明は、あくまで確認であり同意ではありません。例えば、利用者の家族から「危ないから縛ってほしい」「ベッドを柵で囲んでほしい」と要望や同意があったとしても、それをもって身体拘束等を認める根拠にはならない点に留意しておきましょう。

 

④ 定期的な再検討と該当しなくなった場合の解除

拘束を実施している間も、3要件に該当するかどうかを常に観察・再検討し、該当しなくなった場合には「直ちに」解除しなければなりません。

在宅ではリアルタイムに本人の状況を把握することが難しい面もありますが、訪問時に丁寧に観察を実施します。例えば「一時的に拘束を解除して本人の状態を観察する」といった工夫を取り入れ、本当に継続が必要なのかを慎重に見極め、その結果を関係者全員で共有して再検討を繰り返すことが重要です。

 

緊急やむを得ない場合の記録

緊急やむを得ず身体拘束を行う場合は、運営基準上『その態様および時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由』を記録しなければならないとされています。

記録がないと、身体的虐待を加えていることと同じと取り扱われる恐れがありますので注意が必要です。そして、緊急やむを得ない理由については、切迫性、非代替性、一時性の3つの要件を満たすことについて、組織等として確認等の手続きを極めて慎重に行ったプロセスも記載しておく必要があります。

記録する際には、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 「切迫性」「非代替性」「一時性」の要件を満たす根拠を記録しているか
  • 改善に向けた対応、 再検討を行うごと記録を加えているか
  • 本人の意思、家族の意見を記録しているか(本人の意思については、本人が同意するような言葉を発しても、認知症等により真意ではない可能性があるため、これを踏まえて組織として慎重に判断を行ったかを記録する)

記録の基本ルールも踏まえながら、利用者の状態などアセスメントした内容や、最終的に拘束せざるを得ないと判断した結果まで客観的に記録をしておきましょう。

 

記録の様式

身体拘束等に係る記録様式に、運営基準上の定めはありません。厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」にて『身体拘束に関する説明書、経過観察記録』の参考例が示されていますので、そちらを参考にするとよいでしょう。

■ 緊急やむを得ない身体拘束に関する説明書

⇒説明書のダウンロードはこちら(Word)

 

■緊急やむを得ない身体拘束に関する経過観察・再検討記録

⇒経過観察・再検討記録のダウンロードはこちら(Word)

 

第3章:訪問介護現場における注意点とチームで守る尊厳

これまで身体拘束等の基本ルールや手続きについて確認してきましたが、訪問介護には施設サービスとは異なる特有の難しさがあります。本章では、現場で働く皆さんが直面しやすいリスクと、チーム全体で利用者の尊厳を守るための心構えをお伝えします。

 

訪問介護特有の「密室性」と見えないリスク

介護サービスに携わるスタッフには、すべての高齢者の尊厳を保持し、認知症等で意思を十分に伝えられない場合でも、その人らしさを支えるケアを実践する使命があります。

しかし、ヘルパーの援助は利用者の自宅という密接な環境で行われます。そのため、安全の確保を優先するあまり、無意識のうちにヘルパーの都合で利用者の自由や自己決定を制限してしまう恐れがあるのです。

また、在宅生活ではご家族の意向が強く反映されるため、「家族独自のルール」や「強い要望」に現場のヘルパーが流されてしまいやすい環境でもあります。だからこそ、その空間に介入する私たちには、常に客観的なプロとしての視点を保つことが求められます。

 

これも拘束?在宅に潜む「不適切なケア」

例えば、転倒を防ぐためと言って、立ち上がろうとする利用者に「危ないから座っててください」「勝手に動かないで」と強く制止したり、日常的に「ちょっと待って」と声をかけたりしてはいないでしょうか。

これらは「スピーチロック(言葉による制限)」と呼ばれる不適切なケアであり、利用者の行動を制限する拘束にあたります。特に「ちょっと待って」は、業務に追われているときほどつい口から出てしまいますが、言われた側からすれば行動の自由を奪われているのと同じです。

目に見えない制限だからこそ、誰もが無意識に行ってしまう危険性を持っています。さらに、声かけや同意確認のない急な介助もまた、ヘルパーの都合を優先した不適切なケアであり、虐待の芽になりかねません。

このような不適切なケアを防ぐ具体的な取り組みとして、まずはスピーチロックも身体拘束であると組織全体で受け止め、「ちょっと待って」等の言葉の言い換えにチームで取り組んでいくことが重要です。

 

虐待防止委員会を活用した取り組み

現場でスピーチロックや不適切なケア、あるいは咄嗟の身体的制止等の事例があった場合は、決して個人の胸に留めてはいけません。「これって大丈夫?」という小さな気づきや事例を、組織内で共有できる仕組みを設けておくことがとても大切になります。

訪問介護は、施設系サービスとは異なり「身体的拘束等適正化検討委員会」の設置・開催の義務はありませんが、虐待防止委員会や事業所の定例会議などを積極的に活用し、不適切なケアや尊厳を無視した対応を行っていないか、事業所全体で定期的にチェックしましょう。

日頃から意識を高め合える風通しの良い環境を作ることが、利用者の尊厳を守り、同時にヘルパー自身の安心を両立させるカギとなります。

 

さいごに

身体拘束の廃止・適正化は、決して特別な事例や自分たちには無縁なことではありません。

冒頭でもお伝えした通り、訪問介護の密室性の高い現場では、良かれと思った咄嗟の行動や何気ない声かけが、無意識のうちにご利用者様の自由や尊厳を奪う拘束になってしまっていることがあります。また、生活援助中心の軽度な利用者の支援であっても、例えばトラブル時にヘルパーの身体を使って制止する場面もあるかもしれません。

本記事を通して、「何が身体拘束にあたるのか」を一人ひとりが正しく理解し、日々のケアを客観的に振り返る視点を持っていただけたなら幸いです。

「今の自分の声かけは大丈夫だっただろうか?」「あの介助は少し強引だったかもしれない」と自らのケアに疑問を持つことこそが、質の高い支援への第一歩です。その小さな気づきや違和感を決して一人で抱え込まず、チーム全体で共有し、改善策を話し合える風通しの良い事業所を築いていきましょう。

正しく知識を持ち、ケアを振り返り続けるその姿勢が、利用者がその人らしく尊厳を持って最期まで暮らせる生活を支える、何よりの力となります。

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この記事を書いた人

ヘルパー会議室編集部

くらたろう

30代男性。大阪府在住。東証一部上場企業が運営する訪問介護事業所に3年従事し、独立。事業所の立ち上げも経験。訪問介護の経験は11年目、現在も介護現場に自ら出つつサービス提供責任者として従事している。ヘルパー・サ責の学ぶ機会が少ないことに懸念を抱き、2018年に訪問介護特化型ポータルサイト「ヘルパー会議室」を設立。

【保有資格】 訪問介護員2級養成研修課程修了/介護職員基礎研修修了/社会福祉士/全身性ガイドヘルパー/同行援護従業者養成研修修了  
ヘルパー / サービス提供責任者の仕事

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