障害福祉サービスの居宅介護における介護報酬区分は、「身体介護」「家事援助」「通院等介助(身体介護伴う・伴わない)」「通院等乗降介助」の4つに分けられています。
今回は、このうち「通院等乗降介助」についてピックアップし、通院等介助との違いや提供の範囲、算定方式をわかりやすく解説します。
通院等乗降介助の算定方法は、入り組んでおり非常に難解です。
できるかぎり丁寧に説明していきますので、通院等乗降介助を提供している、または提供する予定のある方は、ぜひ参考にしてください。
【障害】居宅介護の通院等乗降介助とは?
障害福祉サービスの居宅介護における通院等乗降介助とは、ヘルパーが自ら運転する車で通院等の送迎を提供するサービスです。目的地までの送迎のみならず、乗車降車の介助、乗車前もしくは降車後の移動の介助、通院先・外出先での受診の手続き、移動の介助などを行います。
通院等乗降介助の提供には道路運送法上の許可・登録が必要
居宅介護の通院等乗降介助を実施するためには、道路運送法上の許可・登録が必要です。(運送に係る反対給付を受け取らない場合は許可・登録は不要)
さらに自治体(指定権者等)への届け出も行わなければなりません。
例えば、大阪府枚方市では以下の書類を提出することと定めています。
- 指定に係る記載事項
- 通院等乗降介助の実施にかかる体制等確認票
- 運転従事者一覧表
- 道路運送法に基づく許可書または登録証の写し
なお、運営規定を変更する必要がありますので、運営規定(居宅介護等の内容変更)に係る変更届け出書類もあわせて提出してくださいね。
通院等乗降介助の対象者
居宅介護の通院等乗降介助の対象者は、障害支援区分1以上です。
したがって、居宅介護を利用している方すべてが対象となります。ただし、通院等乗降介助を提供するためには、その利用者が市町村等から通院等乗降介助の支給決定を受けている必要があります。
通院等乗降介助の支給決定を受けると、障害福祉サービス受給者証に「居宅介護(通院等乗降介助中心)…○○回/月)などと記載されますので必ず事前に確認してください。
記載がないようであれば、サービス等利用計画と支給申請書を市町村等へ提出し、支給決定を受けたことを確認してから通院等乗降介助の提供にあたりましょう。
ちなみに通院等乗降介助の支給回数は、市町村等がサービス等利用計画など利用者の状態・状況を勘案し決定します。この支給回数を超えたサービス提供はできませんので、きちんとプランニングを行った上で市町村へ提出してください。
※サービス等利用計画は、基本的に特定相談支援事業所に属する相談支援専門員(計画相談)が作成、提出します。(セルフプランの場合を除く)
通院等乗降介助の単位数
片道1回につき102単位。
なお、移送に係る「運賃」は介護報酬(介護給付費)の対象になりません。
運賃については別途自費で利用者へ請求を行い、支払いを受けます。
【障害】居宅介護の通院等乗降介助の提供範囲
障害福祉サービスの通院等乗降介助の提供範囲、利用目的については、通院等介助と同じです。
通院等介助における外出の利用目的の範囲であれば通院等乗降介助でも提供できます。
なお、介護保険の訪問介護における通院等乗降介助とは提供範囲が異なりますので注意しておきましょう。
以下、一覧表に居宅介護の通院等乗降介助の提供範囲をまとめました。
- 医療機関への通院
- 官公署への公的手続きや相談のための外出(国、都道府県および市町村等の機関、大使館、公使館、領事館など)
- 相談支援事業所などへ障害福祉サービスの利用相談をするための外出(指定地域移行支援事業所、指定地域定着支援事業所、指定特定相談支援事業所、指定障害児相談支援事業所等)
- 転院の付き添い
- 理美容院のための外出
- 買い物の付き添い
- 冠婚葬祭やお墓参りのための外出
- 友人宅への付き添い
- 趣味・娯楽(カラオケ、パチンコなど)のための外出
訪問介護の通院等乗降介助では、日常必需品の買い物にも適用されますが、居宅介護の通院等乗降介助では、基本的に日常必需品であろうがなかろうが買い物の送迎を算定できません。
参考:居宅介護の通院等介助とは
令和6年度報酬改定による通院等乗降介助の変更内容
令和6年度の報酬改定により、通院等介助および通院等乗降介助の対象要件の見直しが行われました。
見直しされた内容は以下のとおりです。
- 目的地が複数あって居宅が始点または終点となる場合には、指定障害福祉サービス(生活介護、短期入所、自立訓練(機能訓練)、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型)、指定通所支援(児童発達支援、放課後等デイサービス)、地域活動支援センター、地域生活支援事業の生活訓練等及び日中一時支援から目的地(病院等)への移動等に係る通院等介助及び通院等乗降介助に関しても、同一の指定居宅介護事業所が行うことを条件に、算定することができる。
※上記に係る厚生労働省Q&A
- (通院等介助等の対象要件)
問24 通院等介助等の対象要件の見直しが行われたが、この対象について、
①「自宅→病院→障害福祉サービスの事業所」、「障害福祉サービス事業所→病院→自宅」の両方とも対象になるのか。
②「障害福祉サービス事業所→病院→障害福祉サービス事業所」は対象になるのか。 - 居宅が始点又は終点となる場合には、障害福祉サービスの通所系の事業所や地域活動支援センター等から目的地(病院等)への移動等に係る通院等介助等に関しても、同一の事業所が行うことを条件に支援の対象とするものである。このため、①は自宅を始点又は終点としているため報酬の対象になるが、②は障害福祉サービス事業所を始点及び終点としているため、報酬の対象にならない。
※令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.1(令和6年3月19日)より引用
これまでは複数の目的地がある場合は、「病院・官公署等」→「病院・官公署等」→自宅など、病院や官公署等のみしか認められていませんでしたが、令和6年度の報酬改定により障害福祉サービス事業所等も対象となったわけですね。
【障害】通院等乗降介助と通院等介助の違い
通院等乗降介助と通院等介助の違いがわからない・・・!何が違うの?
こんな疑問がヘルパー会議室の相談掲示板にいくつか寄せられていました。
「通院等乗降介助」と「通院等介助」の違い。確かにとても分かりにくいですよね。
これから順に説明していきます。
まず、通院等乗降介助と通院等介助の一般的な住み分けは以下のとおりです。
サービス種別 | サービスの流れ |
通院等乗降介助 | 声かけ・説明→目的地(病院等)に行くための準備→ヘルパーが自ら運転する車への乗車介助→運転→降車介助→気分の確認→受診等の手続等 |
通院等介助 | 声かけ・説明→目的地(病院等)に行くための準備→バス等の交通機関への乗降→気分の確認→受診等の手続等 |
「ヘルパー自ら運転する車を利用する」あるいは「バス・電車・タクシー等の公共交通機関を利用する」かどうかが通院等乗降介助と通院介助の違い、住み分けの基本となります。
とはいえ、通院等介助の支給決定を受けている利用者に対して、事業所等が所有する車をヘルパー自ら運転して通院等の介助を行ってはいけないというわけではありません。(もちろん運送に係る反対給付を受けとる場合は、道路運送法上の許可・登録は必要ですし、市町村によっては通院等乗降介助を使うよう指示されるケースもあります)
ただし、事業所等が所有する車を使って通院等の介助を行う場合は、乗降介助の前後に連続して行われる介助内容・時間によって
- 通院等乗降介助で算定する場合
- 通院等介助(身体介護を伴う場合)で算定する場合
- 身体介護中心型で算定する場合
の3つに分けられるケースもあるため注意が必要です。
この入り組んだ算定方式が通院等乗降介助の解釈を難しくさせている所以です。
次章で解説していきます。
【障害】居宅介護の通院等乗降介助の算定方式
先のとおり障害福祉サービスの居宅介護において、事業所が所有する車をヘルパー自ら運転して通院などの介助を行う場合は、乗降介助に前後して行われる介助内容・時間によって「①通院等乗降介助で算定」or「②通院等介助(身体介護を伴う場合)で算定」or「③身体介護中心型で算定」に分けられるケースがあります。
ここでは、それぞれのケースごとの算定要件を詳しく解説していきます。
ケース①:通院等乗降介助を算定する場合の要件
通院等乗降介助の基本的な算定要件は、以下の①に加えて、②もしくは③のどちらかの介助を行う必要があります。
- ヘルパー自らが運転する車への乗降介助
- 乗車・降車前後の屋内外における移動等の介助
- 通院先での受診等の手続、移動等の介助
「車両への乗降介助のみ」または「通院先での移動介助のみ」をもって通院等乗降介助を算定することはできません。
また通院等乗降介助は、下記イメージ図のとおり片道ごとに算定します。(往復する場合は×2で算定)
通院等乗降介助の院内介助の取り扱い
通院等乗降介助における院内介助の取り扱いは、公共交通機関等を利用して行う通院等介助と同じです。
詳しくはヘルパー会議室のコラム「通院等介助の院内介助について」を参考にしてください。
官公署等内の介助は算定対象になりますが、病院内の介助の算定は原則できません。
ただし、病院側のスタッフによる対応が難しいなどの場合は算定できる可能性があります。また、この場合、院内介助(官公署等内の介助を含む)は通院等乗降介助に包括評価するとされています。
ですから上記イメージ図のとおり、たとえ院内介助(官公署等内の介助)を行ったとしても、往路102単位と復路102単位しか算定できません。
複数の外出先への移送も通院等介助の算定が可能
定められた外出先の範囲内であれば、複数の目的地への移送も通院等乗降介助として算定可能です。
この場合、1つの外出先への移送を1回のサービスとして算定します。
ケース②:通院等介助(身体介護を伴う)を算定する場合の要件
ヘルパーや事業所が所有する車を利用して通院等の介助を行う場合に、通院等乗降介助ではなく、通院等介助(身体介護を伴う)を算定するための要件は下記のとおりです。
- 通院等のための乗車・降車の介助を行うことの前後に連続して、20~30分程度以上の「手間のかかる身体介護」を行う場合
※「手間のかかる身体介護」は、例えば、寝たきりの利用者の更衣介助や排せつ介助をした後に、ベッドから車いすへ移乗介助し、車いすを押して車両へ移動介助する場合など。
通院等介助(身体介護を伴う)を算定する場合のイメージ
この場合は、運転中の時間を除き、往路・復路それぞれに通院等介助(身体介護を伴う場合)を算定します。(※ただし、市町村によっては往路・復路間が2時間未満であった場合は合算する、2時間未満であるか否かは問わず通算する、としている場合もあるため事前確認をお願いします。)
院内介助を算定する場合のイメージ
加えて院内介助(官公署等内の介助を含む)を行う場合は、運転中の時間を除き、往路・復路を一括して通院等介助(身体介護を伴う場合)を算定します。
移動先が複数ある場合のイメージ
移動先が複数ある場合は、運転中の時間を除き、乗降前後の介助や乗降介助、薬の受け取り・受診手続き等の介助時間を通算して1回のサービスとして算定します。
ケース③:身体介護中心型を算定する場合の要件
ヘルパーや事業所が所有する車を利用して通院等の介助を行う場合に、通院等乗降介助・通院等介助(身体介護を伴う)ではなく、身体介護中心型を算定するための要件は下記のとおりです。
- 通院等乗降介助または通院等介助(身体介護を伴う場合)を行うことの前後において、居宅における「外出に直接関連しない身体介護」を30分~1時間以上行う場合(かつ外出に直接関連しない身体介護が中心である場合 )
※「外出に直接関連しない身体介護」は、食事介助や入浴介助など。
身体介護中心型を算定する場合のイメージ
この場合は、運転中の時間を除き、往路・復路それぞれに身体介護中心型を算定します。(※ただし、市町村によっては往路・復路間が2時間未満であった場合は合算する、2時間未満であるか否かは問わず通算する、としている場合もあるため事前確認をお願いします。)
院内介助を算定する場合のイメージ
加えて院内介助(官公署等内の介助を含む)を行う場合は、運転中の時間を除き、往路・復路を一括して身体介護中心型を算定します。
移動先が複数ある場合のイメージ
移動先が複数ある場合は、運転中の時間を除き、乗降前後の介助や乗降介助、薬の受け取り・受診手続き等の介助時間を通算して1回のサービスとして算定します。
なお、ケース③の取り扱いは、通院等介助(身体介護を伴う場合)の対象利用者に適用されます。そのため通院等介助(身体介護を伴わない場合)の対象利用者に対して、事業所の所有する車をヘルパー自ら運転して通院などの介助を行う場合は、ケース③の取り扱いは適用されません。
また、ケース①②③いずれの場合においても市町村の支給決定を受けていなければサービス提供・報酬算定はできません。ですので、どのような利用形態(提供形態)になるのかをあらかじめ市町村と十分に話し合った上で、市町村から支給内容および支給量の決定を受けるようにしてください。
さいごに
今回は障害福祉サービスにおける居宅介護の通院等乗降介助について解説しました。
通院等乗降介助の解釈は難しいかと思いますが、本記事を繰り返し読んでもらえればいくらか理解できるはずです。また、算定方法が分からない場合は必ず市町村へ問い合わせることも忘れず行ってください。
本記事を読んでくださった方は、サービス提供責任者が多いと思います。当サイト「ヘルパー会議室」ではサービス提供責任者向けのマニュアルを公開していますので、合わせてチェックしておきましょう。