
重度訪問介護には「できないこと」があるってよく聞くけど、何ができないの?
最近ヘルパーとして働き始めたので、わかりやすく教えてほしい。
今回は、こんな疑問にお答えします。
重度訪問介護は、障害者総合支援法にもとづく社会サービスです。そのため、省令により「できること」「できないこと」が定められており、ヘルパーは、この重度訪問介護の範囲について十分に理解しておくことを求められます。
とはいえ実際の介護現場では、何ができて何ができないのか判断が難しく、知らぬ間にできないことを提供してしまっているかもしれません。
本記事では、こうした状況を防ぐために重度訪問介護の「できないこと」を16種選出し、それぞれを具体的に解説しています。
本記事を読めば、重度訪問介護のできないことがすべてわかり、現場で迷うことが無くなるはず。さらに、できること・できないことの一覧表も最後に載せていますので、ぜひ日々の業務にお役立てください。

重度訪問介護として認められないサービスを提供し、介護報酬を得る行為は不正受給にあたります。「知らなかった…」「利用者さんにお願いされたから…」は通用しません。しっかり正しい知識をインプットしておきましょう。
重度訪問介護とは
重度訪問介護とは、重度の肢体不自由者または重度の知的障害、もしくは精神障害により行動上著しい困難がある方に対して、身体介護や家事援助、外出支援、見守りなどの支援を、長時間にわたって総合的かつ断続的に行うサービスです。(厚生労働省HPより参照)
訪問系サービスには、他にも介護保険の訪問介護や障害福祉サービスの居宅介護などがありますが、これらと比較して特徴的なのは、「見守り」についても算定できる点です。排せつ介助や食事介助、掃除、調理などの介護実務の間に発生する時間も、ヘルパーが利用者のそばで待機して見守ります。
加えて、重度訪問介護の利用者は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなど医療ニーズが高い難病を抱えている方が多く、「喀痰吸引」や「経管栄養」といった医療的ケアを行えるのも特徴のひとつです。(※資格要件あり)

まさに「ありとあらゆる支援」を行えるサービスが、重度訪問介護だと言えるでしょう。
重度訪問介護の「できないこと」16選
先に述べたとおり重度訪問介護は、長時間の中でありとあらゆる支援をヘルパーが行えます。しかし一方で、省令により「できないこと」が定められている制限付きサービスでもあります。
では、どういった内容のサービスが提供できないのか?ここからは、重度訪問介護で「これだけ押さえておけばOK!」と選出した16種のできないことを解説していきます。
\ できないこと16選 /
- 直接、本人の援助に該当しない行為
- 商品の販売など生業を援助する行為
- 日常生活に支障が生じないと判断される行為
- 日常的に行われる家事の範囲を超える行為
- 散髪やカミソリによる髭剃り
- 服薬管理
- 医療行為
- 見守りのみの支援
- 銀行への預貯金の引出代行
- 通勤、営業活動等経済活動に係る外出
- 社会通念上適当でない外出
- 政治活動や宗教活動を目的とした外出
- 通年かつ長期にわたる外出
- 道路運送法に基づく許可を受けていない事業所のヘルパーが運転する車を利用した外出
- 余暇支援目的の代読
- 利用者自身の契約に関する代筆
①直接、本人の援助に該当しない行為
重度訪問介護は、利用者本人に対する援助のみが対象です。そのため直接、利用者本人の援助に該当しないサービスは提供できません。
例えば
- 利用者家族が使用している個所の掃除
- 利用者家族の分の食事準備や買物代行
- 知人が来訪してきた際の対応(お茶、食事の手配など)
- 自家用車の洗車、清掃
- 利用者本人以外に対する身体介護や外出支援
などがこれに該当します。
特に「家族と同居している」「頻繁に来客がある」等のケースで、ヘルパーが依頼されやすいため注意しておきましょう。
②商品の販売など生業を援助する行為
重度訪問介護では、商品販売などの生業を援助するサービスは提供できません。
利用者の中には、就労しながら重度訪問介護を利用している方も多いです。しかし、利用者に対して金銭的な営利が発生する作業をヘルパーは支援できないとされています。
例えば
- 家に持ち帰った仕事をヘルパーが手伝う
- 内職をヘルパーと一緒に行う
- 在宅勤務中の利用者に対する業務支援
などが該当します。
③日常生活に支障が生じないと判断される行為
重度訪問介護は、ヘルパーが行わなくても日常生活に支障が生じないと判断されるサービスは提供できません。
例えば
- 庭の草むしり
- 花や野菜の管理(水やりなど)
- ペットの世話(散歩、エサを与える、ペットフードの購入など)
などが該当します。
こういった内容は、障害福祉サービスではなく自費サービスを利用してもらうのが一般的です。
④日常的に行われる家事の範囲を超える行為
重度訪問介護では、日常的な家事の範囲を超えるサービスは提供できません。
例えば
- 家具・電気器具等の移動や修繕、模様替え
- ベランダ、エアコン、照明器具などの清掃
- 窓ガラス磨きや床のワックス掛けなどの大掃除
- 室内外家屋の修理、ペンキ塗り
- 植木の剪定等の園芸
- 正月、節句等のために特別な手間をかけて行う調理
- 手の込んだディナーメニューの調理
などがこれに該当します。
ただし、利用者の中には嚥下機能が著しく低下している、あるいは重度の内臓疾患を抱えている方も多いため、トロミ食やキザミ食、糖尿病食、腎臓病食など、特別食の調理については提供可能です。
⑤散髪やカミソリによる髭剃り
重度訪問介護では、散髪やT字カミソリによる髭剃りは原則できません。もちろん利用者自らが行う分には問題ありませんが、ヘルパーが行うとなると理容師法に抵触する恐れがあります。
自治体によってカミソリによる髭剃りをOKとしている所もあるようですが、刃物の使用はケガや感染のリスクを伴います。ですから、髭剃りを行うのであれば、カミソリではなく電気シェーバーなど代替品を使用する方が良いでしょう。
⑥服薬管理
重度訪問介護では、服薬の管理をヘルパーが行うことはできません。
服薬管理とは、例えば「袋から1回分の薬を取り出してセットする」などを指し、医師または医師の指示を受けた薬剤師あるいは看護師のみしか行えません。
ヘルパーが行えるのは、「薬の準備」や「飲み忘れの確認」、「一包化された薬の封を切り、利用者の口へ運ぶ」などの服薬介助までです。
⑦医療行為
重度訪問介護では、医療行為をヘルパーが行うことはできません。
医療行為とは「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為」を指し、先述した⑥服薬管理も医療行為のひとつです。
その他、介護現場で遭遇しやすい医療行為として
- 爪そのもの、または周囲の皮膚に化膿や炎症があり、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要な場合の爪切り、爪やすり
- 耳垢が溜まり耳の穴をふさいでしまっている場合の耳掃除
- 重度の歯周病などがある場合の口腔ケア
- 服薬管理
- インスリン注射
- 水銀血圧計での血圧測定
- 褥瘡の処置など、専門的な判断が必要な傷の処置
- 肌に接着したパウチの取り替え
- 自己導尿
- 摘便
- 血糖値測定
などがあげられ、ヘルパーが行ってしまうと医師法違反に問われますので十分注意しておきましょう。
なお、『喀痰吸引』や『経管栄養』などの医療的ケアについては、介護福祉士(平成28年度以降の合格者のみ)または重度訪問介護従業者養成研修統合課程、喀痰吸引等3号研修等の修了者に限り、提供可能です。(※ただし、都道府県等から事業所登録を受ける必要あり)
⑧見守りのみの支援
重度訪問介護における見守りとは、単に利用者のそばでヘルパーが待機するだけではなく、身体介護や家事援助の合間に発生する「日常生活に生じる様々な介護の事態」に“備える”ことを指します。
ですから、長時間サービスの中で、身体介護や家事援助、外出支援、医療的ケアなどを一切行わず、見守りのみを行うといったことは原則できません。
あくまで何かしらの介護に備えるための見守りですので、備える介護がないのであれば、重度訪問介護における見守りとして認められない、ということです。
⑨銀行への預貯金の引出代行
重度訪問介護では、ヘルパーが利用者の代わりに銀行へ出向き預貯金を引き出す(あるいは預け入れる)ことは原則できません。
理由としては、ヘルパーに金銭管理上の責任が生じ、トラブルを誘発しかねないからです。また、これに伴いキャッシュカードや通帳を預かることも原則できません。
そのため、外出支援(移動介護)により利用者と一緒に銀行へ行く、または社会福祉協議会が行っている金銭管理サポート事業を利用する、などの方法を用いるのが一般的です。
⑩通勤、営業活動等経済活動に係る外出
重度訪問介護では、通勤や営業活動などの経済活動に係る外出の支援はできません。
これは「就労中の障害者の支援については、就労で恩恵を受ける企業自身が支援を行うべき」とされているからです。
例えば
- 通勤時の移動介助
- 就労先での移動介助や排せつ介助、食事介助、水分補給などの介助
- 個人事業主における、金銭が発生する営業活動に係る外出支援
などが該当します。
⑪社会通念上適当でない外出
重度訪問介護では、社会通念上適当でないと判断される外出の支援はできません。
例えば
- 競輪場、競馬場、競艇場、パチンコ店などギャンブルを目的とした外出
- 風俗店への外出
- スナックなど飲酒を目的とした外出
などが該当します。
⑫政治活動や宗教活動を目的とした外出
重度訪問介護では、政治・宗教活動を目的とした外出の支援はできません。
例えば
- 政治活動としての選挙運動に係る外出
- 政治的意思表示として行われる大衆的示威行動(デモ)に係る外出
- 宗教活動としての布教活動・勧誘に係る外出
などが該当します。
ただし、選挙投票や日曜礼拝、集会への参加、墓参りや初詣などに係る外出支援は提供可能です。
⑬通年かつ長期にわたる外出
重度訪問介護では、通年かつ長期にわたる外出の支援はできません。
「通年かつ長期」と非常にあいまいな表現が用いられていますが、基本的に『通所』や『通学』のことだと理解してください。
例えば
- 障害福祉施設への通所
- 就労継続支援A型・B型事業所(作業所)への通所
- 学校への通学
などが該当します。
ちなみに、よく通院や買い物も「通年かつ長期」では?と思われている方がいますが、これには該当しませんので提供可能です。
⑭道路運送法にもとづく許可を受けていない事業所のヘルパーが運転する車を利用した外出
重度訪問介護では、道路運送法にもとづく許可・登録(介護タクシー)を受けていない事業所のヘルパーが運転する自動車を使用した外出支援はできません。また、許可・登録を得ている場合であってもヘルパーが運転している時間帯は、算定対象外になります。
なお、利用者が所有する自動車や、利用者が借りたレンタカーを使用する分には、道路運送法上の許可・登録は必要ありません。
⑮余暇支援目的の代読
重度訪問介護では、余暇支援目的の代読をヘルパーが行うことはできません。
例えば、「小説の読み聞かせ」などが該当します。ただし、郵便物や電化製品等の取り扱い説明書などの代読は提供可能です。
⑯利用者自身の契約に関する代筆
重度訪問介護では、利用者自身の契約に関する代筆をヘルパーが行うことはできません。
他にも、医療機関等での同意書の代筆や、利用者本人の経済活動や団体運営に関する物の代筆も、原則不可とされています。
重度訪問介護の「できないこと」は市町村によって異なる場合がある
これまで解説してきた重度訪問介護のできないことは、医療行為を除き、市町村によって異なる場合があるので注意してください。
というのも、重度訪問介護を支給するかどうかを決定するのは、利用者の居住地に属する市町村です。そのため、A市ではOKだがB市ではNGといった地域差が発生することがあります。(いわゆるローカルルールのことです)
また、同じ地域であっても利用者それぞれの障害特性や生活実態を勘案し、個別的に認められるケースもあります。何しろ重度訪問介護は、重度障害を抱えた方に対して支援するわけですから、ニーズの幅がとても広く、それゆえに柔軟な対応をしてくれる自治体が多いです。
正直なところ、重度訪問介護の「できないこと」は、単一的に断言できるものではありません。できないと思っていたことでも、ある地域ではできるかもしれませんし、利用者の状態・状況によっては個別的に認められることもあるでしょう。
本記事で取り上げた「できないこと」は、あくまでも基本として理解していただき、市町村の意見を参考にしながら実際の運用にあたってくださいね。
重度訪問介護のできること・できないこと一覧表

以下は、重度訪問介護の「できること」を含めた一覧表です。
できること・できないことを対比しながら確認できるよう作成しましたので、ぜひお役立てください!
できること | できないこと |
---|---|
排せつ介助 | |
○
など | × ー |
食事介助 | |
○
など | × ー |
入浴介助 | |
○
など | × ー |
洗面・整容 | |
○
など | ×
|
移動・移乗介助 | |
○
など | × ー |
更衣介助 | |
○
など | × ー |
体位交換 | |
○
など | × ー |
起床介助 | |
○
など | × ー |
就寝介助 | |
○
など | × ー |
服薬介助 | |
○
など | ×
|
掃除 | |
○
など | ×
|
洗濯 | |
○
など | ×
|
調理 | |
○
など | ×
|
買い物代行 | |
○
など | ×
|
ベッドメイキング | |
○
など | ×
|
衣類の整理・補修 | |
○
など | ×
|
育児支援 | |
○
など | × 育児支援は、利用者が子どもの保護者として本来家庭内で行うべき養育を代替するものであるため
のすべてに該当しない限り、原則、利用できない |
外出 | |
○ ①社会生活上外出が必要不可欠な外出
②余暇活動など社会参加促進のための外出
| × ①通勤、営業活動等経済活動に係る外出 ②社会通念上適当でない外出
③政治活動や宗教布教活動を目的とした外出 ④通年かつ長期にわたる外出
⑤道路運送法に基づく許可を受けていないサービス事業所のヘルパーが運転する車を利用した外出 |
医療行為 | |
○
※1)医師の処方を受けた薬で、誤嚥や薬の調整など、専門的な配慮や判断が必要ない場合に限る ※2)挿入部の長さが5~6cm程度以内、グリセリン濃度50%、 成人用の場合で40グラム程度以下、6歳から12歳未満の小児用の場合で20グラム程度以下、1歳から6歳未満の幼児用の場合で10グラム程度以下の容量のもの ※3)実施者は介護福祉士(平成28年度以降の合格者)および重度訪問介護従業者養成研修統合課程修了者などに限る。加えて実施事業所は都道府県等による事業所登録が必要。 | ×
|
その他 | |
○
など | ×
|
重度訪問介護で働きたい方に読んでほしいヘルパー会議室のコラム
今回は、重度訪問介護の「できないこと」16種を解説しました。
基本的に、本記事で取り扱った「できないこと」を把握しておけば、問題なく業務に臨めるはずです。ただし、繰り返しにはなりますが、自治体の考え方や利用者の状態・状況によって異なる場合があるため、管轄の自治体に確認しながら進めてくださいね。
ここまで読んでくださった皆さんの中に、重度訪問介護で働いてみたい方がいましたら、ぜひ以下の記事も読んでおきましょう。この2記事では、重度訪問介護の給料相場や夜勤帯の仕事内容などを具体的に解説しています。
重度訪問介護で働く前に読んでおくと、転職の失敗を防ぐ一助にきっとなります。