今回は、障害福祉サービスと介護保険サービスの適用関係について解説します。
どちらが優先されるのか等、基本的な考え方を示し、また「みなし2号」の方の場合についても取り扱いを解説していますので、ぜひ参考にしてください。
当記事は、基本的に居宅介護等の訪問系障害福祉サービスや介護保険の訪問介護サービスを提供する事業所向けに作っています。
障害福祉サービスと介護保険サービスの適用関係
障害福祉制度と介護保険制度には、それぞれさまざまなサービスが設けられていますが、サービス内容や機能から、障害福祉サービスに相当する介護保険サービス(※1)がある場合は、社会保障制度の原則である保険優先の考え方のもと、原則介護保険サービスの利用が優先されます。ただし、介護保険サービスには相当するものがない障害福祉サービス固有のサービス(※2)については、介護保険サービスと別に利用(併用)可能です。
※1)障害福祉サービスに相当する介護保険サービス
相当するサービス | ||
居宅介護・重度訪問介護 | ⇔ | 訪問介護 |
生活介護 | ⇔ | 通所介護(デイサービス) |
短期入所(ショートステイ) | ⇔ | 短期入所(ショートステイ) |
※2)障害福祉サービス固有のサービス
- 行動援護、同行援護、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援など
障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合であっても、一律的に介護保険サービスを優先的に利用するものではなく、市町村は申請者の個別の状況に応じ、申請に係る障害福祉サービスの利用に関する具体的な内容(利用意向)を聞き取りにより把握した上で適切に判断することとされています。
加えて、障害福祉サービスの利用を認める要件として、一定の要介護度や障害支援区分以上であること、特定の障害があることなどの画一的な基準(例えば、要介護5以上でかつ障害支援区分4以上、上肢・下肢の機能の全廃、一月に利用する介護保険サービスの単位数に占める訪問介護の単位数が一定以上等)のみにもとづき判断することは適切ではなく、障害福祉サービスの利用者が介護保険サービスへの移行を検討する際には、個々の障害特性を考慮し、必要な支援が受けられるかどうかという観点についても検討することとされています。
介護保険サービスの対象者
- 65歳以上の第1号被保険者
- 40歳以上65歳未満の第2号被保険者で、加齢に伴う疾病(16の特定疾病※)をお持ちの方
上記に該当する障害福祉サービスの利用者が、要介護状態または要支援状態となり要介護認定等を受けた場合であって、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、原則として介護保険サービスに移行することになります。
※16の特定疾病 | |
①末期がん(医師が一般に認められている知見にもとづき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの) | ⑨脊柱管狭窄症 |
②関節リウマチ | ⑩早老症 |
③筋萎縮性側索硬化症 | ⑪多系統萎縮症 |
④後縦靱帯骨化症 | ⑫糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症 |
⑤骨折を伴う骨粗鬆症 | ⑬脳血管疾患 |
⑥初老期における認知症 | ⑭閉塞性動脈硬化症 |
⑦進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病 | ⑮慢性閉塞性肺疾患 |
⑧脊髄小脳変性症 | ⑯両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 |
「みなし2号」の場合
みなし2号とは、第2号被保険者でない40歳~65歳未満の生活保護受給者(特定疾病により要支援・要介護の認定がある生活保護受給者)を指します。第2号被保険者と“みなして”、同等のサービスが受けられるように、生活保護の「介護扶助」で介護報酬の全額(10割)が支払われます。
この「みなし2号」の利用者の場合は、生活保護の「補足性の原理」により障害者総合支援法の給付が優先されます。つまり、例えば障害福祉サービスの居宅介護と介護保険サービスの訪問介護であれば、みなし2号の方は、訪問介護は利用できず、居宅介護を利用することになるということです。
ただし、みなし2号の方が65歳に到達すると、第1号被保険者となり、介護保険サービスに切り替わります。
障害福祉サービスと介護保険サービスの併用・併給が可能となる要件
先のとおり障害福祉サービスの利用者が、介護保険サービスの対象者となった場合に、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスにより必要な支援を受けることが可能と判断される場合は、基本的には障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付)の支給(併用・併給)は受けられません。
ですが、次の要件に該当し、適切なサービス量が介護保険サービスのみによって確保することができないと認められる場合等には、個別のケースに応じて障害福祉サービスを利用することが可能とされています。
要件:介護保険給付の区分支給限度額の制約から確保することができない場合
在宅の障害者で、申請に係る障害福祉サービスについて市町村において適当と認める支給量が、当該障害福祉サービスに相当する介護保険サービスに係る介護保険サービスの区分支給限度額の制約から、介護保険のケアプラン上において介護保険サービスのみで確保することができないと認められる場合は、その限りにおいて支給を受けることが可能です。
要件:利用可能な事業所等が身近にない、空きがない場合
利用可能な介護保険サービスに係る事業所や施設が身近にない、あっても利用定員に空きがないなど、障害者が実際に申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用することが困難と市町村が認める場合は、当該事情が解消するまでの間に限り、支給して差し支えないとされています。
要件:介護認定の結果「非該当」と判定された場合
介護保険サービスによる支援が可能な障害者が、介護保険の要介護認定等を受けた結果、非該当と判定された場合など、当該介護保険サービスを利用できない場合であって、申請に係る障害福祉サービスによる支援が必要と市町村が認めるときは、支給を受けることが可能です。(介護給付費に係るサービスについては、必要な障害支援区分が認定された場合に限る)
訪問系サービスに関する具体的な運用例
訪問系障害福祉サービスの居宅介護・重度訪問介護と介護保険の訪問介護等の訪問系サービスについて、高齢障害者に対する支給決定に際して、よくある運用例として考えられるものを2つ紹介します。
運用例①
居宅介護や重度訪問介護の利用者であって、個々の障害者の障害特性を考慮し、介護保険の訪問介護の支給限度額では必要な支給量が不足する場合などにおいて、訪問介護等と当該不足分について居宅介護等を併用する。
これはかなり多いケースです。この場合、不足分を上乗せとして障害福祉サービスの居宅介護や重度訪問介護で補填する形で支給決定されます。
具体的な取り扱いについては、各市町村が支給決定基準を定めていますので、そちらを確認してみましょう。(※以下コラムで簡単に紹介していますので参考にしてください)
運用例②
居宅介護や重度訪問介護の利用者について、個々の障害者の障害特性を考慮し、介護保険の訪問介護の支給対象とならない支援内容や時間(例えば、家事援助として認められる範囲の違いや、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守りなど)が必要と認められる場合に、介護保険の訪問介護の支給とは別に居宅介護等を支給し併用する。
重度訪問介護で見守りの時間も算定対象となりますが、介護保険の訪問介護等では算定対象になりません。
また、介護保険の訪問介護等において一般的に介護保険の家事援助の範囲に含まれないと考えられる事例等を示す「老振第76号」については、居宅介護や重度訪問介護は適用または準用されないとされていることから、市町村によっては例②のように、訪問介護とは別に支給決定を受けることができる場合があります。
さいごに
今回は、障害福祉サービスと介護保険サービスの適用関係について解説しました。
訪問系サービス事業所が知っておくべき基本的な内容は網羅できているかと思いますので、繰り返し読み学んでくださいね。
また、障害者総合支援法の全体像やサービスの種類、支給決定の流れ等について、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてチェックしておきましょう。