最近、重度訪問介護で働き始めたのですが、精神的にも身体的にも「きつい」です。
これからも働きつづける自信がありません…。
今回は、こんな悩みに答えます。
重度訪問介護は、ヘルパーという職種においてかなり特殊な部類の仕事です。世間一般的に認知されている高齢者介護とはまったく異なる性質をもっており、正直なところ「きつい」と感じやすい仕事と言えます。
重度訪問介護で働いた経験がある方なら、おそらく「辞めたい」と思ったことは一度や二度ではないはず。特に新人ヘルパーであれば仕事に慣れる前に辞めてしまうことも…。
ただ、一方で重度訪問介護にやりがいを感じてずっと働きつづけている方もいます。せっかく重度訪問介護で働き始めたのなら、活き活きと仕事に臨みたいものですよね。
では、そんな彼らは、なぜ辞めずに働きつづけることができているのでしょうか?
答えは重度訪問介護ならではの対処法を身につけているからです。
もちろん対処法を習得したところで、きつい感情が完全に消え去るわけではありません。しかし、重度訪問介護特有のキツさに『適応』することなら可能であり、適応することで初めてやりがいは生まれてくるものです。
そこで今回は、重度訪問介護がきついと感じている方向けに、そのキツさの正体を解明した上で、実践すべき対処法を4つ紹介します。
本記事では重度訪問介護のリアルを嘘なく説明しています。
これから重度訪問介護で働く方にも参考になりますので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
重度訪問介護とは
重度訪問介護とは、障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスのうち、介護給付に位置付けられているサービスのひとつです。
重度の肢体不自由者または重度の知的障害、もしくは精神障害により行動上著しい困難がある方の自宅にヘルパーが訪問して、排せつ介助や食事介助などの身体介護、掃除や調理などの家事援助、外出支援、見守り等のサービスを、長時間にわたって総合的かつ断続的に行います。(詳しくは重度訪問介護の「制度」知識ガイドを参照)
もともと、重度障害者が24時間つぎ目なく支援を受けれるよう設計されているため、1回の訪問で8~12時間程度、2~3交代制シフトでヘルパーを回すのが基本です。
加えて日中の支援だけではなく、利用者宅に泊まり込む「夜勤」業務があるのも重度訪問介護の特徴になります。
日中・夜間・深夜・早朝の四六時中をヘルパーが利用者の生活に寄り添い支援する、いわば“超生活密着型”のサービスが重度訪問介護です。
【重度訪問介護がきつい】キツさの正体を徹底解明
冒頭でも触れたとおり重度訪問介護は、正直なところ「きつい」と感じる方がほとんどです。
仕事に慣れてくれば楽な面もしばしばありますが、一定数の方は重度訪問介護“特有”のキツさに耐えられず辞めてしまいます。
では、具体的にどのようなことが「きつい」のでしょうか。
ここでは重度訪問介護がきつい原因を6つ紹介します。
\ 6つの原因 /
- 長時間の仕事がきつい
- 夜勤業務がきつい
- 性格的に気難しい利用者への対応がきつい
- コミュニケーションがうまく取れなくてきつい
- 特殊かつ繊細な身体介護がきつい
- 医療的ケアが恐くてきつい
1.長時間の仕事がきつい
1つ目は、長時間の仕事であるがゆえのキツさです。
重度訪問介護は、訪問1件あたり8~12時間程度の仕事になるのが一般的。中には1~2時間程度の場合もありますが、これは稀なケースです。逆に夜勤であれば12時間以上になることも珍しくありません。
介護保険の訪問介護(高齢者介護)が1件あたり30分~2時間程度の訪問ですから、比較してみると想像を絶する長時間労働だと理解できるかと思います。
プライベートでさえ、他人と同じ空間で長時間を共有するのはきついと感じる方も多いはず。これが仕事となると気を張りますし、精神的に疲れるのは当然と言えます。
2.夜勤業務がきつい
2つ目は、夜勤業務に対するキツさです。
介護保険の訪問介護(高齢者介護)にも夜勤はありますが、利用者宅に泊まり込むことはなく、必要な時間帯にスポット的な短時間訪問を行います。
対して、利用者宅に泊まり込み長時間の支援を行うのが重度訪問介護の夜勤です。
重度訪問介護の夜勤は、利用者が寝入ってしまえばヘルパーも仮眠をとれますし、仕事内容的に楽ではあります。しかし、就寝中の利用者を起こさないように物音やスマホの光に配慮したりと気をつかう場面も多いです。
また就寝中に体位交換などの介助が必要なケースだと、ろくに仮眠をとれず、12時間ぶっとおしの仕事になってしまいます。
ただでさえ、普段寝ている時間帯に仕事をすることによる疲労に加えて、仮眠もとれないとなると身体的にも精神的にもきついと感じます。
参考:【重度訪問介護の夜勤】仕事内容と5つの注意点【タイムスケジュールあり】
3.性格的に気難しい利用者への対応がきつい
おそらく重度訪問介護を辞めたいと思う原因ナンバーワンが、3つ目の性格的に気難しい利用者への対応です。
重度訪問介護の利用者の中には、ヘルパー側からすれば些細なことでも「介助のやり方が違う」「介助の順番が違う」「食器を置く位置が違う」などと怒ってくる方が少なくありません。時にはハラスメントまがいの行為をしてくる方もおり、対応に悩んでしまうヘルパーは多いです。
短時間の仕事であれば耐えれるかもしれませんが、長時間の重度訪問介護ではそうはいきません。
もちろん、性格的に気難しい利用者ばかりではないですし、穏やかな方もいます。しかし、こうした利用者に当たったヘルパーの大半は、精神的な辛さに耐え切れず辞めていってしまうのです。
4.コミュニケーションがうまく取れなくてきつい
4つ目は、利用者とのコミュニケーションがうまく取れないことから発生するキツさです。
重度障害を抱えた利用者には、発語ができない、あるいは発声はできても聞き取りづらい方もおり、こうした方とうまくコミュニケーションが取れないと、「伝えたいことが伝わらない」ため怒り出してしまいます。
しかし、ヘルパー側からすれば耳を研ぎ澄ましても利用者がなにを言っているのかまったくわかりません。また言葉を話せない利用者の場合、文字盤を使用して話を聞きとりますが、これも慣れないと難しい。
コミュニケーションは、利用者と信頼関係を築くための第一歩になるものです。意思の疎通が図れなければ、いつまでたっても信頼関係は築けません。
結果、うまくサービスを進めることができずヘルパーにとってストレスになります。
5.特殊かつ繊細な身体介護がきつい
5つ目は、求められる身体介護スキルに関するキツさです。
重度訪問介護において、一般的な高齢者介護で必要となる身体介護スキルは、まったくと言って良いほど役に立ちません。
なぜなら、重度訪問介護の利用者は
- 高齢者と身体的な特徴が異なる(手足の欠損、拘縮、力が入らないなど)
- 自分なりの体の動かし方がある
- 介助中に意図しない動きをする場合がある
- 内臓疾患を持っている場合がある
といった特性があり、これらに配慮した身体介護スキルを求められるからです。
しかもスキルが通用せず、ヘルパーの力のみに頼った介助を必要とするケースもあり、身体的にきついと感じます。
6.医療的ケアが恐くてきつい
6つ目は、医療的ケアに関するキツさです。
重度訪問介護の利用者には、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や筋ジストロフィー、脳性マヒなどの医療ニーズが高い方が多いことから、医療的ケアを実施するケースもあります。
医療的ケアとは、『喀痰吸引』や『経管栄養』のことを指し、詳細は以下のとおりです。
- 喀痰吸引(かくたんきゅういん)
人工呼吸器を使用している等、自力で痰を吐けない方の鼻やのどに溜まった痰をチューブで吸い出す。 - 経管栄養(けいかんえいよう)
食事を喉から摂取できことにより造設された胃ろう・腸ろうに栄養剤を注入する。
どちらも高度なスキルが求められるケアではありませんが、一歩間違えれば利用者の生命を脅かすリスクがあるため恐いと感じるヘルパーは多いです。
「もし失敗したらどうしよう・・・」と不安が消えず、辞めてしまう原因のひとつになります。
重度訪問介護が「きつい」ときに実践すべき4つの対処法
これまで重度訪問介護がきつい理由を6つ紹介してきました。
結局のところ、重度訪問介護のキツさを解消するためには「慣れる」ことが重要です。しかし、なにも対処せず、なにも実践せずでは一向に慣れることはできません。
ここからは、いち早く重度訪問介護に適応するための対処法を4つ紹介していきます。ぜひ実践してみてください。
\ 4つの対処法 /
- 待機時間でうまく気を抜く
- 私心を捨て、淡々と業務をこなす
- 悩みを相談できる相手を見つける
- 担当する利用者を変えてもらう
対処法①「待機(見守り)時間でうまく気を抜く」
重度訪問介護は、長時間の仕事の中で常に介護実務を行うわけではありません。
身体介護や家事援助の合間に発生する待機(見守り)時間が必ずあり、ケースによっては12時間のうち6時間以上が待機時間になることもあります。
重度訪問介護を辞めずに働きつづけているヘルパーは、この待機時間をうまく活用して気を抜いています。例えば、漫画や小説を読んだり、スマホでゲームをしたり。
もちろん利用者から呼ばれたら切り替えて介助を行いますが、大切なのは待機時間と介護実務のメリハリをきちんとつけることです。
重度訪問介護は、まじめなヘルパーであるほどきついと感じます。
長時間の仕事は、神経を使いすぎると心身が持ちません。あまり気張りすぎず、良い意味で気楽に取り組んでみましょう。
対処法②「私心を捨て、淡々と業務をこなす」
先に述べたとおり、重度訪問介護の利用者には性格的に気難しい方がいます。担当のヘルパーからすれば「いつも理不尽に怒られてきつい」「どこに地雷があるかわからず神経を使う」と悩みますよね。
ですが、気難しい利用者の性格が変わることを望んではいけません。
望んでも利用者は変わりませんので、ヘルパー自身のスタンスを変えることが重要です。まずは私心を捨て、淡々と業務をこなすことを意識してみてください。
重度訪問介護において求められる人材は、利用者の手足となって思いどおりに動いてくれるヘルパーです。
重度障害を抱えた利用者は、常に誰かの手を借りなければ“生きる”という行為そのものができません。そのため日常で必要な生活行為をとても細かいレベルで『ルーチン化』した日々を送っています。
例えば、「〇時にテレビを見る、〇時に××に行く、〇時に朝食を食べる」といったスケジュールから、「コップはこの位置にセットする、移乗介助は○○の方法で行う」といった介助方法まで、基本的に同じことを繰り返すことで生活が成り立っています。
ですから、利用者が“生きる”ために、文字どおり自分の手足となってくれるヘルパーを求めますし、自分の思ったとおりに動いてくれないヘルパーに不満を感じるわけです。
もちろん、度をこえた指示や理不尽な要求に従う必要はありません。しかし、仕事だと割り切って、ある意味で機械的に仕事をこなしていく姿勢が大切です。
ルーチン化された生活は、簡略化されているとも言えますので、時間とともに求められる介助方法や手順に慣れてきます。
ひととおりの仕事をこなせるようになれば、利用者が怒り出すことも減り、むしろ心を開くようになるでしょう。
対処法③「悩みを相談できる相手を見つける」
重度訪問介護のヘルパーは、事業所に立ち寄らない直行直帰スタイルで働くため、どうしても孤独になりがち。
多種多様な利用者と関わるヘルパーには、思っている以上にストレスがかかります。仕事の悩みや不平不満、時には利用者に対して苛立ち、愚痴をこぼしたくなることもあるでしょう。
そんなとき、あなたの心の負担を減らしてくれるのは同僚ヘルパーです。誰かに話しを聞いてもらうだけで「もうちょっと頑張ってみよう」と思えるもの。
ぜひ、相談できる相手を見つけましょう。
相談相手には、同じ利用者へサービスを提供する同僚ヘルパーが最適です。その利用者への悩みは、その利用者に関わっている人でなければ共感できません。
事業所で開催されるヘルパー勉強会や会議の際に、こちらから積極的に話しかけてみましょう。また、管理者やサービス提供責任者に頼んで同僚ヘルパーと繋いでもらうのも方法のひとつです。
重度訪問介護はサービス回数が多く、通常、複数人のヘルパーが関わるため相談相手を見つけやすい環境です。
あなたのメンタルがどれだけ強くても、悩みを抱え込んでしまえば、どこかで限界がきて潰れます。ぜひ横のつながりを大切にしてくださいね。
同僚ヘルパーに利用者との関わり方やテクニックを聞いて、自分の仕事に取り入れましょう。
対処法④「担当する利用者を変えてもらう」
一生懸命頑張っても対応が難しく、うまくいかないケースも重度訪問介護にはあります。
合う・合わないといった相性の問題もありますし、度を超えたケアハラスメントをしてくるような利用者に対して、ヘルパーが我慢する必要もありません。
そんなときは、事業所に相談して利用者を変更してもらいましょう。
重度訪問介護は、利用者の数に対してヘルパー人材が圧倒的に足りていない業界です。どの事業所もヘルパーを逃したくない・辞められたくないと考えているため、基本的にヘルパーの意向に沿ってくれます。
利用者の変更だけではなく、例えば、身体介護のやり方で悩んでいるならサービス提供責任者が同行訪問してレクチャーする、といったことも可能です。
ただし、ここで理解しておいてほしいのは、ヘルパーから相談してくれなければ事業所は対応策を打てないということ。
管理者やサービス提供責任者に相談するのは気兼ねするかもしれませんが、ひとりで何でも解決できる人なんていません。決して我慢せず、とにかくすぐに事業所へ相談してくださいね。
事業所側の立場から言うと、ヘルパーさんに我慢されるより、すぐに相談してくれた方がありがたいです。我慢して辞められる方が事業所としては困ります…
どうしても重度訪問介護が「きつい」なら辞める選択もあり
これまで重度訪問介護がきついときの対処法を紹介してきましたが、実践してみても適応できず、辞めたい方もいると思います。
私自身、重度訪問介護を長年経験してきましたので、その気持ちは痛いほどよく分かります。
そんなあなたに私から伝えたいのは、「無理せず辞めたら良い」ということです。
- 嫌な利用者のところに訪問する日は、気分が沈んで憂鬱になる…
- 事業所に訴えかけてもハラスメントをしてくる利用者を変えてくれない…
- 事業所がしっかり教育をしてくれない…
- 相談できる相手を見つけられず、ストレスが溜まって爆発しかけている…
こんな状況で働きつづけても、心をすり減らし、消耗するだけです。
他の事業所はいくらでもあります。重度訪問介護だけではなく居宅介護や訪問介護(高齢者介護)、あるいはガラッと環境を変えて施設介護を選択するのも良いでしょう。
幸いなことに介護業界は人手が足りませんから、山ほど求人が揃っています。そして、重度訪問介護という特殊かつきつい環境で働いた経験は、他の職場でも間違いなく活かせます。
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