訪問介護に限らず、どんな仕事にも嫌なことや大変なことは必ずあります。
そんなとき、大切になるのはストレスの要因となった出来事に飲み込まれず、上手にメンタルをコントロールして対処することです。
しかし、実際のところ
訪問介護の仕事がしんどい…精神的にかなりキツい。
と、訪問介護業務にまいってしまう方は少なくありません。
そこで今回は、ホームヘルパーが実践すべきメンタルケアの方法を解説します。訪問介護向けの対処法を具体的に紹介していきますので、ぜひ取り入れてみてください。
人材不足の訪問介護業界においてメンタルケアへの取り組みは必須です。
本記事は、事業所で実施する全体研修の資料としても使えますので、ヘルパーだけでなく管理者やサービス提供責任者の方々も参考にしてくださいね。
研修テーマ集:【研修資料つき】訪問介護のヘルパ-勉強会テーマ39案
訪問介護におけるメンタルケアの重要性
介護職は、いわゆる「感情労働」と呼ばれる仕事のひとつです。
常時自分の感情をコントロールして利用者に寄り添うことを求められる、極めて精神への負荷がかかる仕事と言えます。とりわけ介護職の中でも訪問介護は、きれいごとでは済まされないストレスに曝される場面があります。
- 暴言や暴力などのハラスメント行為をしてくる利用者への対応
- 利用者の細かい指示や監視されながら提供する掃除、調理
- 制度外の過度な要求をしてくる利用者への対応
- 長時間、他者への不平不満などの愚痴を受け止める
- ゴミ屋敷やタバコの煙が充満した環境でのサービス提供
- 相性が合わない利用者への対応
など、みなさんも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
このような状況下では、強靭な精神を持つ人であっても疲弊するのは当然です。
とはいえ、どれだけ過酷なケースであっても、ホームヘルパーは冷静に対応しなければならず、だからこそストレスを溜め込まないメンタルケアの手法を身につけておくことが大切になります。
真面目な人ほど要注意
真面目な人ほどストレスを溜め込みやすい傾向にあるため注意が必要です。
なんらかの問題に直面したとき、
- 「こんなことで落ち込んでいてはいけない」
- 「頑張りが足りないから上手くできないんだ」
と、自分自身を責めてはいませんか?
自罰的な考えは、燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスクを高めます。また「私は何のためにヘルパーをしているのだろう…」と、訪問介護の仕事そのものを嫌になってしまうかもしれません。
しかし、数ある仕事の中からホームヘルパーという職種を選んだみなさんは、訪問介護の良いところもたくさん知っているはずです。
利用者や家族から感謝される喜び、成果がでた達成感、そして、みなさんの頑張りが利用者の日常生活を守っているという誇り。こうした訪問介護ならではのやりがいを日々感じながら、可能なかぎりストレス要因を上手く対処して業務に取り組んでもらいたいものです。
みなさんがイキイキと働けるように、これから適切なメンタルケアの実践方法を学んでいきましょう。
厚生労働省では5分でできる職場のストレスセルフチェックを提供しています。
4つのステップによる簡単な質問に答えるだけで自身のストレスレベルを測ることができますので、一度チェックしてみてください。
メンタルケアの第一歩は「自己覚知」から
では、メンタルケアとは何をどのように行えば良いのでしょうか。
方法は人それぞれですが、まずはメンタルケアの第一歩となる「自己覚知」に取り組んでみましょう。
自己覚知とは、言葉のとおり“自分自身を知ること”
自分の価値観や考え方の傾向、物事の捉え方の癖などを深く知り、自覚するという意味です。
自分は何が許容できて何が受けれられないのか、発生した出来事をどのように捉えてどう行動するのか、といった自身のメカニズムを把握することで、一時の感情に捕らわれることなくコントロールできるようになります。
少し難しい言葉を使いましたが、簡単に言うと「自分の性格を客観的に理解する」というのが自己覚知です。
自己覚知を通じて自分と他者の違いを知る
自己覚知は、単に自分の性格を理解するだけが本質ではありません。
自分に向き合う過程で、“自分と他者は違う存在”だという認識を深めることが何より大切です。
人間は、主観的に物事を捉えがちな生物であり、それゆえに「こうするべき」「こうしなければならない」といった、自分だけの常識や価値観を他者にも求める傾向があります。
他者へ期待すると、その期待が裏切られたときに怒りや悲しみなどを感じ、負の感情に振り回されやすくなります。
誰もが自分と同じ目線、同じ考え方ではありません。また自分の思いどおりに他者が動くこともありません。
あなたにあなたなりの価値観や考え方があるように、利用者にも利用者なりの価値観や考え方があることを十分に理解しておきましょう。
自己覚知に取り組み、自分の問題の捉え方や大事にしている価値観を明確することで、相容れない相手であっても「そういう考え方もあるか」「これを大事にしているんだな」と俯瞰して捉えられるようになります。
自己覚知の実施方法
自己覚知は、「自分で振り返る(自己分析)」と「他人と振り返る(他己分析)」を組み合わせて実施することが重要です。一方のみでは十分な成果は得られません。
先のとおり自己覚知とは、ひたすら自分に向き合う作業です。向き合うということは、自身の良い面だけでなく悪い面も浮き彫りになることを意味しており、この工程は辛さをともないます。
しかし、深く自分を知るために欠かせないステップとなりますので恐れずに取り組んでみてください。
自分で振り返る(自己分析)
自分ひとりで実施する自己覚知の方法には、さまざまなものがあります。
その中で、ヘルパー会議室がおすすめするのは「①エゴグラム」と「②振り返りシート」を用いて自己分析を行う方法です。
①エゴグラム
エゴグラムは、アメリカの心理学者エリック・バーンの「交流分析」という人間関係の心理学理論に基づいて作られた心理検査です。
人の自我状態を以下の5つに分類し、その5つの自我状態が放出する心的エネルギーの高さをグラフ化して性格を診断します。
- CP(Critical Parent):批判的で、権威的で、厳格な自我状態
- NP(Nurturing Parent):愛情深く、保護的で、支援的な自我状態
- A(Adult):現実的で、客観的で、論理的な自我状態
- FC(Free Child):自由で、自然で、創造的な自我状態
- AC(Adapted Child):従順で、控えめで、依存的な自我状態
エゴグラム診断では、これらの5つの自我状態のバランスを把握することで、自分の性格や行動パターンを客観的に理解することができます。
株式会社ダイレクトコミュニケーションが簡易的なエゴグラム診断を無料提供しているようですので、以下の公式サイトから診断してみてください。
※個人での利用は無料ですが、法人での利用は有料となりますのでご注意ください。
②振り返りシート分析
振り返りシートを用いた自己分析は、日々のサービス提供について自分の対応(言動や行動)をシートに書き出して振り返る方法です。
紙でなくてもパソコンなど、媒体は問いません。サービス提供一つひとつを丁寧に振り返り、
- 「なぜ利用者Aさんに○○と言われてイラッとしたのだろうか」
- 「なぜ利用者Bさんの訪問はいつも緊張するのだろうか」
- 「なぜ利用者Bさんが○○をしているときに○○と言ってしまったのだろうか」
といった具合に、「なぜ?」と自分へ問いかけ掘り下げることで自己理解が深まります。
すべての訪問先を逐一振り返るのは難しいかと思いますので、自身がストレスに感じているサービスを中心に行うと良いでしょう。
ただし、該当する利用者宅へ訪問した日に振り返りを行うようにしてください。日が経つにつれて記憶が薄れていきますので、新鮮なうちにサービス中の利用者の発言や挙動、自身の対応などについて振り返りましょう。
他人と振り返る(他己分析)
自分ひとりではなく他人も交えて実施する自己覚知の方法にも、さまざまなものがあります。
その中で、ヘルパー会議室がおすすめするのは「①同行訪問フィードバック」「②ジョハリの窓グループワーク」の2つです。
同行訪問フィードバック
同行訪問フィードバックは、サービス提供責任者に同行してもらって客観的な視点からフィードバックを受ける方法です。
先の振り返りシートを用いた自己分析とあわせて実施すると良いでしょう。
なぜなら「自分から見た自分」と「他人から見た自分」は、乖離している場合があるからです。自分ひとりではどうしても気づけないことは必ずあり、こうした部分は、得てして他人から指摘されてはじめて気づくものです。
同行訪問フィードバックの実施にあたっては、当サイトが無料提供しているOJTシートを活用してください。
ジョハリの窓グループワーク
ジョハリの窓とは、心理学者のジョセフ・ルフトとハリントン・インガムによって考案された自己分析ツールを指します。「自分から見た自分」と「他人から見た自分」の情報を切りわけて分析し、自分と他者の認識のズレを発見するためのフレームワークです。
具体的には以下、4つの視点(窓)から自己分析を行います。
- 開放の窓:自分も他人も知っている自分
- 秘密の窓:自分は知っているが、他人は知らない自分
- 盲点の窓:他人は知っているが、自分は知らない自分
- 未知の窓:自分も他人も知らない自分
「秘密の窓」と「盲点の窓」が自分と他者の認識のズレを意味します。
そして、盲点の窓で明らかになった他者からの指摘や意見を確認していくことで「開放の窓」が広がります。
さらに、認識のズレを解消して開放の窓が拡大することで、対人ストレスが軽減し、より円滑なコミュニケーションを図ることができるようになるとされています。
ジョハリの窓の実施にあたっては、ヘルパーを4~5人程度に分けてグループワークを行うと良いでしょう。
以下、株式会社シャインが運営する「ポテクト」にて、ジョハリの窓のワークシートの無料提供や実施方法を詳しく解説されていますので、こちらを活用してください。
ホームヘルパーが実践すべきメンタルケアのポイント5選
ここからは、日々の業務の中でホームヘルパーの方々に実践してほしいストレス要因への対処法を紹介します。
ヘルパー会議室運営部の実体験をもとにポイントを5つ厳選しましたので、ぜひ取り組んでみてください。
- 俳優になったつもりで演じる
- 上司や同僚に相談する
- 私生活を充実させる
- 自分を褒める習慣をつける
- アンガーマネジメントを習得する
対処法1:俳優になったつもりで演じる
「ホームヘルパーは俳優である」
これは、昔から訪問介護で良く使われているたとえ表現です。
訪問介護は、利用者の価値観や性格を最大限尊重しながら支援を進めるサービスではありますが、やはり中には相性の合わない利用者に当たることもあります。また、利用者側から「あのヘルパーはガサツだ」などと相性を理由にクレームが寄せられることもあるでしょう。
この相性の問題は、人と人が関わる仕事である以上、避けることはできません。
とはいえ、相性が合わない苦手なケースに訪問し続けるのは非常にストレスになります。
そこで重要になるのが、その利用者に合った“役柄を演じる”こと。
例えば、「利用者が何かを教えたくなるお孫さんのような役柄」を、「利用者から話しかけやすいご近所さんのような役柄」を、「利用者が頼りたくなるハキハキした好青年のような役柄」を、という具合にホームヘルパー自ら相性を合わせにいく姿勢が大切です。
相性が合わないからといって現状に我慢してはいけません。
試しに利用者が受け入れやすくなる役柄を設定し、俳優になったつもりで演じてみてください。ホームヘルパーの関わり方が変われば、利用者の反応も目に見えて変わります。苦手意識が少しでも薄れたらストレスは軽減されていくでしょう。
みなさんの同僚の中にも、どんな利用者にも対応できるエースヘルパーがいるのではないでしょうか。エースヘルパーのすごいところは、身体介護技術や家事能力だけでなく、相手に合わせる適応能力の高さです。
自分の価値観を押し付けず、また利用者のいいなりになるわけでもなく、利用者の性格に合わせて上手く誘導しています。
こうした評判の良いヘルパーをお手本に、ロールモデルとして参考にしてみるのも良いでしょう。
対処法2:上司や同僚に相談する
サービス提供が上手く運ばす「私、ヘルパーの仕事に向いていないのかも…」と感じることがあるなら、すぐにサービス提供責任者や管理者に相談しましょう。決して我慢しすぎてはいけません。
担当を変えてもらうのもひとつの方法ですし、サービス提供責任者に同行訪問をしてもらって助言を受けるのも良いでしょう。ほんの少し関わり方を変えるだけでスムーズにいくことも往々にしてあるものです。
またホームヘルパーも一人の人間ですから、愚痴を言いたくなることもあるかと思います。
そんなとき、あなたの気持ちを分かち合えるのは、同じ仕事に携わる同僚ヘルパーです。問題解決にならなくても、悩みや不安を吐き出して共有するだけで気持ちが楽になります。
基本、単独で仕事をする訪問介護の特性上、ホームヘルパーは孤独になりやすい職種です。施設介護とは異なり、すぐ近くに相談できる同僚や上司はいません。
そんな訪問介護だからこそ、サービス提供責任者や管理者と密にコミュニケーションをとり、全体研修の場面を活用するなど同僚ヘルパーとの横のつながりを大切にしてください。
逆に事業所側としては、定期的に面談する機会を設けたり、サービス提供責任者や管理者から積極的に話しかけたり、とホームヘルパーが相談しやすい環境を整備することも大切です。
対処法3:私生活を充実させる
私生活を充実させて仕事上のストレスを上手く発散しましょう。
「家に帰っても仕事のことを考えてしまう…」、こんな方もいるかと思いますが、何もプライベートの時間に仕事のことを考えてはいけないと言っているわけではありません。
大切なのは、仕事をしているときの自分ではなく、“素の自分”に戻ってリラックスできる時間をきちんと設けることです。
好きな映画やドラマを見たり、部屋の模様替えをしてリフレッシュしたり、また思い切って今までできなかった新しいことにチャレンジしてみるのも良いでしょう。
このように仕事とプライベートを分けて、何かに没頭できる時間を作るようにしてください。
こころに余裕がない状況で仕事のことを考えても的確な判断はできません。逆にこころにゆとりがあれば仕事への取り組み方が変わり、新たな発想や気づきがあるものです。
その他、しっかり眠ってきちんと栄養を摂り、適度に運動をすることも忘れないようにしてくださいね。
対処法4:自分を褒める習慣をつける
どんなに小さなことでも構いません。毎日1回は自分のことを褒めてあげましょう。
- おむつ交換がスムーズにできた
- 認知症による問題行動がある利用者さんに上手に関われた
- いち早く床にこぼれた水をふき取り、転倒防止につなげた
- 1日笑顔で働けた
「こんなことでいいの?」と思われるかも知れませんが、物事を習慣づけるには小さなことから始めていくのがポイントです。
真面目な人ほど自分を過小評価する傾向にあります。
「自分より仕事ができる人はたくさんいる。もっと頑張らないと」「時間内に業務が終わらなかったのは自分の要領が悪いからだ」などと考え、自分を追い詰めてしまいます。
自罰的思考に陥ると、周りが評価してくれていたとしても気づかないものです。時にはフラットな気持ちで、周りを見渡してみてください。あなたを理解してくれる人の存在に気づけるはずです。
最初は難しいかも知れませんが、徐々に自己肯定感を高めていく練習をしましょう。
対処法5:アンガーマネジメントを習得する
アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。
怒りは、誰にでも起こりうる自然な感情ですが、その怒りに振り回されると精神的に疲弊してしまいます。また、怒りをコントロールできないと、利用者とのトラブルや虐待行為などの問題につながる可能性がありとても危険です。
こうした状況を防ぐためには、怒りのメカニズムを理解して、怒りと上手く付き合っていくための方法を習得しておく必要があります。
以下、ヘルパー会議室のコラムで訪問介護職向けのアンガーマネジメントについて詳しく解説していますので、こちらを参考にしてください。
⇒【訪問介護のアンガーマネジメント実践】怒りをコントロールしてうまく付き合う方法
さいごに
今回は、訪問介護職向けのメンタルケアについて解説しました。
忙しくしていると気づきにくいですが、ストレスは知らず知らずの内に溜まっていくものです。
決して無理をせず、本記事を参考にしつつ日々の業務にあたってください。
当サイト「ヘルパー会議室」では、ホームヘルパー・サービス提供責任者の初心者向けに業務マニュアルを無料で公開しています。
この機会にあわせてチェックしておきましょう。