訪問介護で働きだして間もない初心者ヘルパーです。
はじめて車いすへの移乗介助や歩行の介助を行うことになりました。
一人でうまく介助できるか不安です…、注意点やコツを教えてほしい。
ヘルパー会議室では、こんな悩みを解決すべく「訪問介護の移動・移乗介助マニュアル」を作成しました。
本マニュアルは、初心者ヘルパー向けに移動・移乗介助の基本をわかりやすく解説した入門書です。
移動・移乗介助にかかる基礎知識から実践的な手順まで、実際の介護現場に活かせるよう余すところなく解説しています。ぜひ新人ヘルパーの方々は日々の業務にご活用ください。
本マニュアルは、介護サービス情報公表により求められている移動・移乗マニュアルや事業所内で行う研修の資料としても使えます。管理者やサービス提供責任者の方々も参考にしてくださいね。
訪問介護の移動・移乗介助とは
訪問介護の移動・移乗介助とは、歩行や車いす等への乗り移り、体位の交換などの介助をヘルパーが提供するサービスです。
基本的に1回のサービス訪問の中で移動・移乗介助のみを提供することは少なく、実際の訪問介護現場では、入浴・食事・排せつ・更衣等さまざまな身体介護の場面に付随して実施することとなります。
移動は日常生活行為の基礎でありQOLに直結する
高齢になると筋力や感覚器官が衰え、日に日に「寝返る・起き上がる・立つ・座る・歩く」といった移動に係る身体機能が低下していきます。
利用者によっては疾患や障害などが機能低下のきっかけとなることもあるでしょう。例えば、室内で転倒・骨折して以降、自身で移動することが難しくなり、ベッド上での臥床生活が長くなるといったケースは珍しくありません。
移動とは、あらゆる日常生活行為の基礎となる動作です。排せつするにしても、着替えるにしても、お風呂に入るにしても・・・、何かしらの移動に係る機能を保持していなければ自ら行うことはできません。
その利用者がこれまでの日常で自然に行ってきた習慣を行えなくなってしまえば、生活意欲は低下し、結果として生活の質(QOL)も低下していきます。
ですから、こうした状態を防ぐためにも訪問介護には、移動に係る機能の維持・向上を目指した介助方法の提供を求められます。
わたしたち訪問介護は、利用者にその人らしく自立した生活を送ってもらえるよう支援するのが役割です。単に移動・移乗の介助を行えば良いというわけではありません。
どのように介助すれば自立につながり、かつ安全なのかをきちんと検討した上で実施することが重要です。
移動・移乗介助の4つの基本原則
訪問介護の移動・移乗介助は、以下4つの基本原則にもとづき実施します。
\ 4つの基本 /
- アセスメントの実施
- 声かけの徹底
- 介護導線の確保
- ボディメカニクスの活用
基本①:アセスメントの実施
アセスメントとは、直訳すると「評価」や「査定」のこと。
利用者の心身の状態や生活環境などを把握・分析し、適切な介助方法を検討します。
訪問介護で相手にするのは物ではなく人です。当然ながら利用者それぞれの特性があり、介助の実施前にアセスメントをしておかなければその方に適した介助方法の提供はできません。
また、先のとおり訪問介護サービスの大きな目的は、利用者の自立を支援することであり、利用者本人ができることの手助けは基本行いません。自分でできることを減らさず、可能であれば増やしていけるような支援に努める必要があります。
ですので、アセスメントの実施にあたっては自立支援の観点からも利用者を評価・分析することが重要です。
以下にアセスメントのポイントをまとめました。
現疾患、既往歴の把握 |
介護が必要な方は、基本的に何かしらの病気を抱えているはずです。 「脳梗塞後の後遺症により運動麻痺がある方」「骨折の方」「認知症の方」など利用者によってさまざまですが、それぞれ介助方法が異なり、また注意すべき点も違います。 例えば、下肢を骨折して入院していた方の場合、退院しても骨折側の足を動かすと痛みが出るケースがあります。 人間にとって痛みは、とても不快な感覚ですので無理に動かすと痛みを増強する可能性があり、痛みを伴う介助をしていると介護拒否につながりかねません。 まずは、目の前にいる利用者がどのような疾患を起因として介助を必要としているのかを適切に把握し、医療・リハビリ職などからその疾患の注意点について情報収集をしておきましょう。 |
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心身機能・現有能力の把握 |
利用者の心身機能・現有能力を把握し、寝返る・起き上がる・立つ・座る・歩くなど移動にかかる動作と照らし合わせて「利用者のできるところ」「ヘルパーが介助するところ」を明確にします。 例えば「立つ」という行為は、『座位の保持』⇒『お辞儀のような姿勢になる』⇒『お尻を浮かせる』⇒『状態を起こして立ち上がる』⇒『立位の保持』といった動作の連続で成り立っており、これらに対して現時点での利用者の能力と照合・分析します。 そして、このうち利用者自らできることは本人に行ってもらう、あるいはヘルパーの見守りにより対応し、利用者ができないことはヘルパーの介助により対応する、といった具合に整理しましょう。 また加えて、認知機能の低下や高次脳機能障害の有無などの把握も必要となります。なぜなら身体機能面に問題がなくても認知機能が低下していることで移動が難しいケースもあるからです。 こうしたケースで、必要な介助を行わなければ転倒等の事故リスクが高まります。ですから利用者の心身機能・現有能力を的確に把握し、総合的な視点から介助方法を決定することが重要です。 それにより、利用者の残存機能の維持・向上へむけた支援を効果的に実施できるようになるでしょう。 |
姿勢・体格等の把握 |
姿勢や体格は個人差があり、これらは介助方法を左右する大きな要因になります。 例えば、脊柱の屈曲が強い方は、重心が前方変位しやすいため前方にバランスを崩す確率が高くなります。したがって利用者の前方よりから介助する、というように姿勢・体格にあわせた介助方法の選定が必要です。 また、体格が大きい利用者の場合、ヘルパー側にかなりの負担がかかるとともに転倒等の介護事故を誘因しやすくなります。このようなケースでは未然にアクシデントを予防するため、二人介助で行うなどの検討が必要となるでしょう。 |
生活状況・環境の把握 |
利用者の排せつ・食事・水分・運動頻度・服薬などの生活状況を把握します。これらはADLと密接にかかわるものであり、例えば適切な排便コントロールができていなかったり、栄養が不足していたりするとADL、すなわち移動にかかる身体機能は低下します。 詳しくは当サイトコラム「自立支援の展開方法」を参考にしてほしいのですが、身体機能ばかりに目を向けるのではなく、これらの生活状況についてもアセスメントを実施するようにしてください。 また、家屋内の適切な位置に手すりが設置されているかなど、生活環境の把握も必要です。 例えば、ベッドからに立ち上がりに不安のある方であっても、必要な個所に手すりやポジショニングバーが設置されていれば危険なく自力での立位が可能になるケースがあります。 福祉用具等を上手く活用し、生活環境を整えることも自立支援を展開する上でとても重要な視点です。 |
これらのアセスメントのポイントは相互に影響し合うものです。
そのため各ポイントを単一的に捉えるのではなく、それぞれを統合して整理することがとても大切になります。
基本②:声かけの徹底
声かけは移動・移乗介助に限らず、すべての介助の基本です。
声かけを適切に行えていれば利用者との信頼関係の構築につながりますし、逆に声かけを行っていなければ利用者を不要に怖がらせたり介助への抵抗を招いたりしてしまいます。
まずは、ゆっくりとはっきりした口調で、これから移動・移乗介助を行うことを利用者へ説明し、同意を得てから実施しましょう。
そして、開始時のみならず介助中も「痛みはありませんか」「気持ち悪いところはありませんか」など体に配慮するほか、「壁側に体を向けますね」「いちにのさん(123)で立ち上がりますね」などと動作ごとに予告してください。
基本③:介護導線の確保
移動・移乗介助に臨む前に、ベッド上や目的地までの導線上に障害物が置かれていないかを確認します。
例えばベッド上にリモコンや眼鏡ケースが置かれていたり、トイレまでの導線上に衣類や雑誌、ゴミ、扇風機などが置かれていたりすることがあるはずです。
このような状況下では、介助の妨げになるだけでなく利用者を転倒させケガを負わせてしまうかもしれません。
第一に導線確保を念頭に置いて、不要な障害物を片付けてから移動・移乗介助を行いましょう。
基本④:ボディメカニクスの活用
ボディメカニクスとは、人間の体の動き(ボディ)に力学(メカニズム)の原理を応用し、より小さな力で、安全かつ効率的に介助を行う技術です。
移動・移乗介助は、ヘルパー側の負担が大きく腰痛の原因となります。
ここでボディメカニクスの理論を説明しますので、ぜひ取り入れてみてください。
大きな筋群を使う
介助者の腕や指先だけに頼った介助方法では、ヘルパーの腰に大きな負担がかかります。
そのため、腹筋や背筋、大腿四頭筋、大殿筋などの大きな筋肉もあわせて同時に使うイメージで介助に取りかかりましょう。それにより最大限の力を発揮でき、かつ1カ所にかかる負荷が分散されます。
利用者の身体をコンパクトにまとめる
利用者の腕を胸の上で組んだり、膝を曲げたりして、身体をできるかぎりコンパクト(小さく)にまとめてから介助を実施します。コンパクトにまとめることで、より力が伝わりやすくなるため介助を行いやすくなります。
支持基盤面積を広く、重心を低くして利用者の身体に近づく
利用者の身体を安定して支えるために重要なのは、
- 支持基盤面積を広くとること
- 重心を低くすること
- できるだけ利用者の身体に近づくこと
の3点です。
支持基底面積とは、床と接している部分を結んだ範囲(介助者の足幅)のことを指します。
ヘルパーの足幅を開いて支持基盤面積を広くとり、膝を曲げて四股のように腰を落とす(重心を低くする)ことで立位姿勢が安定します。そして、この姿勢の状態のまま利用者にできるだけ近づく(双方の重心を近づける)ことで容易に介助できるようになります。
足先を動作の方向へむけ、ひざの屈折を利用する
ヘルパーの足先を動作の方向へ向けることで身体をねじらず介助できます。不自然に身体をねじった介助は、腰への負荷がかかるため注意してください。
また、身体を持ち上げたり前傾姿勢で介助したりすると腰への負荷がより高まります。そこでヘルパーのひざの屈折を利用して移動・移乗の介助を行うことで負担を軽くすることができます。
身体を持ち上げず水平に移動する
ベッド上で利用者を上下左右に移動する際は、身体を持ち上げるのではなく滑らせるように「水平移動」することで、小さい力で介助できます。
てこの原理を利用する
基本的に「持ち上げる」という動作は、重力に逆らうことですので介助者側に負担がかかります。
そのため上記図のとおり支点を作り、てこの原理の要領でヘルパー側に利用者を引き寄せる(体重をかける)ようにすることで容易に介助できます。
【シーン別】訪問介護の移動・移乗介助の実践手順
これまで移動・移乗の基礎知識を解説してきました。
ここから訪問介護の移動・移乗介助についてシーン別の実践手順を紹介します。
シーン1:ベッド上での体位交換の手順
ベッド上での体位交換介助が必要な方は、自力で寝返りできない方が対象となります。ポイントを押さえて効率的な介助ができるようにしていきましょう。
仰臥位⇒側臥位
- STEP1利用者の体をベッドの中心にする
- 利用者の身体をベッドの中央になるよう移動する(身体がベッドの端にあると寝返りをする十分なスペースを確保できないため)
- STEP2利用者の手を組み、両ひざを立てる
- 利用者に腹の上で手を組んでもらい、両下肢を曲げた姿勢(膝立ち位)をとる
- STEP3下肢と肩甲骨を支え寝返りの介助
- 寝返る反対方向の肩甲骨と膝から大腿部の間を手のひらや前腕で支える
- 下半身⇒骨盤、体幹⇒上半身の順に体軸内回旋が起きるように側臥位へ介助する
- STEP4側臥位の保持
- 側臥位は支持基底面が狭く不安定な姿勢となりやすいため、利用者の肩甲骨や骨盤帯を支えて側臥位の姿勢を安定させる
仰臥位⇒腹臥位
- STEP1仰臥位から側臥位へ
- 先の「仰臥位⇒側臥位の手順」を参考に側臥位になる
- STEP2側臥位から腹臥位に姿勢を変える
- 肩甲骨と骨盤帯を支えながら側臥位からゆっくりと腹臥位へ移動する
- 腹臥位は顔や胸部を圧迫しやすく呼吸がしにくくなるため、姿勢やクッション・枕の位置などを調整する
マットレス側の肩を伸展方向(伸び広がる方向)へ、骨盤を後方回旋へ誘導するとスムーズに腹臥位への介助を行えます。
また関節変形や関節拘縮、運動麻痺がある利用者の場合は、痛みが無いかを都度確認しながら姿勢の変換を行ってください。
仰臥位⇒長座位
- STEP1利用者の体をベッドの中心にする
- 利用者の身体をベッドの中央になるよう移動する
- STEP2頭部と上部体幹を支える
- 頭部を拳上し、後頭部から脊柱に沿うように腕を入れて支える
- STEP3利用者の片方の肘を支点にして起き上がり、長座位へ
- 左右どちらかの片方の肘を支点にし、ヘルパーの方へ引き寄せるようにゆっくり起き上がる
- 体幹の筋力低下やバランス機能の低下などで姿勢保持ができない場合は、体幹を支えて姿勢を安定させる
垂直方向に起き上がりをすると利用者に痛みが生じたりするため、効率的な起き上がりの介助方法にはなりません。てこの原理をうまく活用しましょう。
仰臥位⇒端座位
- STEP1利用者の体をベッドの中心にする
- 利用者の身体をベッドの中央になるよう移動する
- STEP2寝返りをする
- 起き上がる側の方向に寝返りをする
- ただし、利用者の疾患(片麻痺や下肢骨折など)によっては寝返りをする方向が制限される可能性があり、この場合は健側方向へ寝返りをする
- STEP3頭部から上半身の順に起き上がり端座位へ
- 上半身と下肢(膝の裏に手を入れる)を支える
- 臀部を軸にして頭部から上半身の順に、弧を描かくように起き上がる
- 片麻痺の利用者の場合は座位バランスが崩れやすいため、起き上がった直後のベッドサイドでの転倒に注意する(必要に応じて背部などを支え座位姿勢を安定させる)
ベッド上での水平移動
水平移動は、利用者の体をベッドの左右に寄せるために行う介助です。
- STEP1利用者の手を組み、両ひざを立てる
- 利用者に腹の上で手を組んでもらい、両下肢を曲げた姿勢(膝立ち位)をとる
- STEP2上半身を手前に移動する
- ヘルパーの腕の内側で首を支え、手のひらで肩甲骨を支えて上半身を手前に水平移動する
- STEP3下半身を手前に移動する
- 片手を腰の下に入れ、もう一方の手でひざを抱え上げて下半身を手前に水平移動する。
ベッド上での上方移動
上方移動は、ベッド上で足元の方にずり下がってしまった利用者をもとの位置(頭部の方)へ戻すための介助です。
- STEP1利用者の手を組み、両ひざを立てる
- 利用者に腹の上で手を組んでもらい、両下肢を曲げた姿勢(膝立ち位)をとる
- STEP2背中と背部に腕を入れる
- 背中(肩甲骨周囲)と臀部(座骨結節あたり)にヘルパーの腕を入れる
- STEP3頭部を軽く挙上する
- 利用者自ら頭部を挙上できる場合は、自身で挙上してもらう
- 自力で頭部を挙上できない場合は、背中に入れている前腕で頭部を支えて介助する
- STEP4上方移動する
- 利用者の身体を支えた状態でベッド上方へ滑らすように移動する
シーン2:車いすの移動・移乗介助の手順
加齢に伴う下肢筋力の低下や障害などにより自力歩行が難しくなった方にとって、車いすは活動範囲を広げ、生活意欲を高める一助となる移動用具です。室内での移動や外出の機会が増えれば、生活の質(QOL)も高まります。
ただし、車いすはあくまでも利用者の移動を目的に使用する用具です。椅子として使うものではないことを理解した上でうまく活用するようにしてください。
車いすによっては、ハンドグリップやバックレスト、アームレスト、フットレスト、キャスターなどが外れるものがあります。介助の前にこれらの部位がそもそも外れる仕様の車いすか否か、そしてタイヤの空気圧も含めて各部位が外れやすくなっていないかを確認しておきましょう。
故障や破損等があればケアマネを通じて福祉用具業者へ連絡してください。(レンタル品の場合)
ベッド⇒車いすへの移乗介助
- STEP1車いすをベッドに近づける
- 車椅子を利用者の車椅子に近いひざと車椅子の座面の先端にこぶし一個入る程度(15度~30度)に近づける
- STEP2ベッドの高さを上げる
- ベッドの高さをやや高め(利用者の足底が床から浮かない程度)に設定する
- STEP3ベッドから立ち上がる
- 利用者の前方から両手で腋窩(腋の下)を支え、斜め上方に引き上げる形で立ち上がる
- STEP4立位の状態で車いすに方向転換をする
- 利用者の腋窩(腋の下)などを支えながら方向転換する(介助する側が急に方向転換をすると利用者が足首を捻挫するリスクがあるため、利用者のペースに合わせながら方向転換すること)
- STEP5立位から車いすに着座
- 方向転換を終えたらゆっくりと車椅子に着座する(着座するときに「ドスン」と座る利用者の場合は、ゆっくり座るよう誘導が必要)
- STEP6車いす上で姿勢を調整する
- 車いすに着座したら姿勢を調整する(車椅子上で仙骨座りしている場合は、車椅子に深く座るようにする)
片麻痺がある場合
- STEP1車いすをベッドに近づける
- 車椅子を利用者の車椅子に近いひざと車椅子の座面の先端にこぶし一個入る程度(15度~30度)に近づける
- STEP2ベッドの高さを上げる
- ベッドの高さをやや高め(利用者の足底が床から浮かない程度)に設定する
- STEP3ベッドから立ち上がる
- ①利用者の麻痺側のひざをヘルパーのひざで挟んでロックする
- ②ヘルパーの片方の手で健側から利用者の背中に手を回す
- ③もう片方の手で麻痺側の臀部を支えて立ち上がる
- STEP4立位の状態で車いすに方向転換をする
- ゆっくりと車いすにむかって方向転換する(ひざのロックが外れてしまいやすいため、ヘルパーはしっかりと自分のひざで利用者のひざをロックすること)
- STEP5立位から車いすに着座
- 方向転換を終えたらゆっくりと車椅子に着座する(運動麻痺の影響で片麻痺の利用者はとくに着座動作が早くなりやすい傾向にあるため、ヘルパーがゆっくりと着座できるように誘導すること)
- STEP6車いす上で姿勢を調整する
- 車いすに着座したら姿勢を調整する(車椅子上で仙骨座りしている場合は、車椅子に深く座るようにする)
ひざロックの介助は重度の運動麻痺の方に使います。麻痺が軽度の利用者には必要ない場合もありますので、利用者の状態に応じて介助方法を変えてください。
なお車いす⇒ベッドへの移乗介助は、上記手順の移乗方向を逆に考えてもらえればOKです。
車いすでの移動介助
- STEP1車いすを動かす
- 利用者にアームレストを握ってもらい、足をフットレストにのせる
- ヘルパーは車いすの後ろに立ち、ブレーキを解除してハンドグリップをしっかり握る
- 「車いすを動かしますね」などと利用者へ声をかけ、周囲の状況に注意しながらゆっくり動かす
- STEP2段差の移動
段差を上がる場合
- 車いすを段差正面に向ける
- ティッピングレバーを足で踏み込んで、ハンドグリップを押し下げてキャスター(前輪)を上げる
- キャスターが段を通過したらゆっくり下ろし、後輪をゆっくり押し上げる
段差を下りる場合
- 車いすを後ろ向きにする
- 後輪を下ろす
- ティッピングレバーを踏んでキャスター(前輪)を浮かせた状態を保持し、段を通過したらキャスターをゆっくり下ろす
- STEP3坂道の移動
上り坂の場合
- 坂に押し戻されないよう歩幅を広げてゆっくり坂を上る
下り坂の場合
- 車いすを後ろ向きにして、後方に注意しながら歩幅を広げてゆっくり下る(斜面がゆるやかな坂の場合は進行方向のまま通常通りの押し方で下っても可)
- STEP4車いすを停める
- 車いすの側面に立ち、片手でハンドグリップを押えながら、もう片方の手でブレーキをかける(少しでも車いすからヘルパーが離れる場合は、かならず両ブレーキをかけること)
シーン3:歩行介助の手順
利用者にとって「歩ける」ということは、先の車いす使用と同様に活動範囲を広げ、生活意欲を高めることにつながります。そのため、できる限り歩行機能の維持・向上が図れるような介助に努めたいところです。
ただし、ひとくちに歩行介助といってもその方法はさまざまです。利用者の心身の状況にあわせて、側方や後方から介助したり、杖や歩行器などの用具を活用したりと適切な方法で介助を行う必要があります。
なお、室内でスリッパを履く利用者もいるかと思いますが、スリッパは歩行時に躓いたり、脱げたりする可能性があるため基本的には履かないよう促しましょう。
腋窩介助
腋窩介助は、歩行時に介助者が利用者の側方に立ち、利用者の腋窩(腋の下)を支え歩行介助をする介助方法の一種です。よく介護のテレビドラマで歩行介助をするときに、この歩行介助方法が用いられていますね。
腋窩介助は利用者のすぐ横に介助者がいるため、バランスを崩した時に迅速な対応をすることができます。そのため、下肢の筋力低下や軽度運動麻痺により歩行バランスを崩しやすい利用者に適している介助方法です。
なお腋窩介助歩行は、今回紹介する歩行介助の中で比較的介助量が少ないですが、介助量が少ない分、歩行時の急な膝折れやバランス崩れに十分注意してください。
- STEP1利用者の横に立つ
- ヘルパーは利用者の側方に立つ(介助者が立つ位置は健側が望ましい)
- STEP2利用者の腋窩を支える
- 利用者の腋窩(介助者側)を下方からヘルパーの手で挟み込むようにして把持する
- 肩に痛みがある利用者の場合、腋窩を支えると痛みを感じることがあるため、そのときは支える場所を上腕中央部に変える
- STEP3手を支える
- 利用者の同側の手を把持し支える(利用者の手が上、ヘルパーの手が下)
- STEP4利用者のペースに合わせて歩く
- 利用者の歩行速度に合わせながら健側→患側の順に歩き出す
手引き歩行
手引き歩行は利用者と介助者が向き合い、正面から利用者の両手(前腕)を介助者が支え歩行介助をする方法です。
介護施設などでは、浴室内の移動や居室内など歩行距離が短い時によく利用される歩行介助です。一方、手引き歩行は長距離の移動をするには適していません。
手引き歩行は、加齢などにより下肢筋力が低下している利用者の歩行介助に適しています。また、お互いの表情が見えやすく歩行に誘導しやすいため、認知症などにより動く意欲が低下している利用者の歩行介助に有効です。
- STEP1利用者の正面に立つ
- ヘルパーは利用者の正面に立つ
- STEP2利用者の両手(前腕)を支える
- 利用者の前腕を下から支えて肘の内側を把持し、利用者にもヘルパーの前腕を上から持ってもらう(手のひらを持つと支える場所が狭く不安定になりやすいため前腕を介助すること)
- STEP3利用者との距離感を調節
- 利用者との距離が近すぎると逆に介助しにくいため、適度なスペース(利用者の肘が軽度屈曲する程度の距離)に調整する
- STEP4利用者のペースに合わせて歩く
- 後方周囲の安全を確認しながら利用者のペースに合わせて歩き出す(歩行のリズムをとるために「いち、に。いち、に」と声かけをすると良い)
- 前方にバランスを崩しやすいため、介助中は歩行スピードと前方のバランスに注意しながら歩く(利用者の表情や仕草を確認しつつ歩くこと)
後方介助
後方介助歩行は、利用者の後方から体(腋窩や骨盤)を支え歩行介助を行う方法です。主に、歩行時に後方へバランスを崩しやすい利用者に対して行います。
後方から介助をするため利用者と密着しやすく、慣れれば介助しやすい方法です。しかし、後方介助をする利用者は、自身で歩行時の重心移動をすることが難しい場合が多く、こちらが重心移動の介助をしなければならないケースもあります。そのため、歩行の介助量が増えやすい特徴があります。
- STEP1利用者の後方に立ち、体を密着させる
- ヘルパーは利用者の後方に立ち、利用者の身体をヘルパーの身体の前面(胸部)で支えるイメージで密着する
- STEP2利用者の体を支える
- 後方から利用者の腋窩または骨盤を支える
- 腋窩の場合は、腋窩後面を下から支える(下から上に持ち上げる力が強すぎると利用者の肩甲帯が挙上され窮屈な姿勢になりやすいので注意すること)
- 骨盤の場合は、ヘルパーの手で骨盤から下腹部をつつみ込むように支える
※骨盤を介助する方法は、重心移動を上手く行うために高い技術が必要です。
- STEP3利用者のペースに合わせて歩く
- 後方から腋窩や骨盤を支えて左右の足底に利用者の重心を移動させながら歩き出す(歩行のリズムをとるために「いち、に。いち、に」と声かけをすると良い)
- 後方介助歩行は利用者だけでなくヘルパーにも負担がかかりやすいため、必要に応じて椅子などで休憩をする時間を設ける
※歩行時の重心移動は利用者の特性に応じて変えなければなりません。側方や前方に重心移動をやり過ぎると、バランスを崩し転倒につながる可能性があるため注意が必要です。
杖歩行
利用者の歩行を支える補助具には、上記図のとおり一本杖やロフストランドクラッチなどの杖類、歩行器や歩行車、シルバーカーなどさまざまなものがあります。
利用者個々の状態に適したものを福祉用具業者やリハビリ専門職などと相談しながら選定しましょう。また各補助具の特徴や使用方法もしっかり把握しておくことが大切です。
ここでは杖のうちT字杖の歩行介助について手順を解説します。
- STEP1杖の高さを調整する
- 杖の高さ(長さ)を利用者が立位の状態で「大腿骨大転子」または「橈骨茎状突起」の高さに合わせる
- STEP2杖を持つ
- 利用者に健側の手で杖を持ってもらう
- STEP3患側から介助して歩き出す
- 杖を使用する手順は、①杖をだす→②杖と反対側の足を前にだす→③杖と同じ側の足をだす、の順に杖を使用して歩く
- 患側にバランスを崩しやすいため、ヘルパーは患側の斜め前方に立ち介助する(例えば右大腿骨頸部骨折後だと利用者の右側、左片麻痺だと左側にヘルパーが立つ)
階段の昇降介助
階段昇降は、一足一段で昇降する方法と二足一段で昇降する方法があります。このうち、安全性が高いのは「二足一段で昇降する方法」ですが、利用者の状態等に応じた階段昇降の方法で実施してください。
また階段に手すりがついている場合は、安定性が増しますので積極的に使用しましょう。
- STEP1階段を昇る
- 健側から足を出し、その後に患側の足を出して階段を昇る(昇りは健側→患側の順)
- ヘルパーは斜め後方に位置して腰付近を軽く支える
- STEP2階段を降りる
- 患側から足を出し、その後に健側の足を出して階段を降りる(降りは患側→健側の順)
- ヘルパーは一段先に降り、斜め前方に位置して腰付近を軽く支える
自動車への乗降介助
通院介助の際など、タクシーを利用することがあるかと思います。
自動車への乗降介助時には転倒のリスクがありますので、しっかり介助方法を理解しておきましょう。
- STEP1車のドアを開く
- ヘルパーがドアを開ける(ドアを前後に開く際に利用者へぶつけてしまわないよう注意する)
- STEP2車内の安定している取っ手をもつ
- 乗降時の手すり代わりとして利用者に車内で安定している取っ手をもってもらう
- STEP3半身姿勢で座席に腰掛ける
- 立位で座席に座ろうとすると転倒のリスクがあるため、半身姿勢の状態で座席に腰をかけてもらう
- STEP4片足づつ足を乗せる
- 座席に近い方の足から順に片足ずつ足を乗せる(例えば、助手席側の乗るときは右足→左足の順)
- STEP5車のドアを閉める
- 利用者の全身が完全に車に乗っていることを確認してシートベルトを着用、車のドアを閉める
さいごに
訪問介護の移動・移乗介助マニュアルは以上となります。
訪問介護における移動・移乗介助の基本は、すべて本マニュアルに盛り込んでいますですので、新人ヘルパーの方々は、ぜひ繰り返し読み参考にしてくださいね。
当サイト「ヘルパー会議室」では、ホームヘルパー・サービス提供責任者の初心者向けに業務マニュアルを無料で公開しています。
この機会にあわせてチェックしておきましょう。