ヘルパーになってから「観察が大切」「様子観察をしてください」とよく言われるけど、そもそも観察ってなに?具体的になにをすればいいの?
ヘルパー会議室では、こんな疑問にお答えすべく訪問介護の観察マニュアルを作成しました。
ヘルパーが行う観察の良し悪しが、訪問介護サービスの質を左右するといっても過言ではありません。
しかし、観察と言われてもどのように実践すれば良いかわからず、なんとなく利用者を見て、観察したつもりになっている方が多いのではないでしょうか?
そこで、本マニュアルでは、訪問介護における観察の必要性やヘルパーが実践すべき基本的な観察項目を具体的にあげて解説しています。
加えて、ヘルパーの観察力を高める「気づき」を養う法則を4つ紹介しますので、ぜひ最後まで読み、日々の業務にご活用ください。
本マニュアルは、ヘルパー研修の資料としても使えます。
研修テーマ集:【研修資料つき】訪問介護のヘルパ-勉強会テーマ38案
訪問介護における「観察」とは
訪問介護における観察とは、利用者の状態やその変化を注意深く把握することを指します。
日々の利用者の健康状態、心身の状態、行動、言動、食事量、排せつ状況などあらゆる情報を把握し、異常の早期発見・早期対応につなげることが目的です。
目視=観察ではない
観察というと、単に利用者を見ることだと思われている方が多いのではないでしょうか。
しかし、漠然と利用者を目視するだけが観察ではありません。
ホームヘルパーの観察は、利用者宅に訪問した時点で始まります。インターホン越しの声色や玄関を開けた瞬間のにおい、聞こえてくる物音、対面時の表情、室内の状況など五感をフルに働かせて情報を収集していきます。
まさに訪問介護サービスは「観察に始まり、観察に終わる」と言え、この積み重ねが利用者の健康的で安心、安全な日常生活を担保する一助となるのです。
生活に身近な訪問介護だからこそ「いつもと違う」に気づける
利用者にとってもっとも身近な専門職がホームヘルパーです。
私生活の場である利用者の自宅で仕事をするということは、利用者のごく自然な“日常”に触れるということ。
利用者とコミュニケーションを図り、体に触って見て聞いて、そんな生活に密着した訪問介護だからこそ「いつもと違う」に気づけます。
「今日は活気がないような気がする。」「いつもより足取りが重いような…」、こうした少しの違和感が、重大な疾患を早期に発見する場合もあり、時として利用者の命を救うことにもつながるのだと心得ておきましょう。
ヘルパーのみなさんには、ぜひ利用者の室内や生活状況にも目を光らせてもらいたいものです。
独居の高齢者は、訪問販売の消費者被害に巻き込まれやすい傾向にあり、知らない間に高額商品を契約してしまうことがあります。もちろん意思決定がきちんとできる利用者であればなにも問題ありません。しかし、中には認知機能が低下していることにつけこんで契約にもちこむ悪質な業者がいるのも事実です。
ヘルパーが訪問したら見慣れない高級ふとんがあったり、業者の名刺や契約書が置かれていたりしていませんか?あるいは、頻繁に電話が鳴っていたり、不審な郵便物が届いていたりしないでしょうか?
こんな生活上の異変をキャッチするのもヘルパーに求められる観察力のひとつです。ヘルパーがいち早く気づくことができればクーリングオフ等を活用して、利用者を消費者被害から守れます。
時間制限のある訪問介護だからこそ「気づく力」が求められる
施設介護とは異なり、訪問介護は1日をとおして利用者を見ることができません。
1日の中で短ければ30分程度、長くても2時間程度が関の山。また訪問回数も、毎日の方もいれば、週に1~2回程度しか訪問しない方もおりケースごとに異なります。
つまり、いくら生活に密着したサービスとはいえ、ヘルパーが関わるのは利用者の日常のほんの一部に過ぎないということです。
だからこそ、ヘルパーには限られた訪問時間の中で、利用者を正確かつ的確に観察するスキルを求められますし、些細な異変にも気づく力を日々養うことが大切になるのです。
訪問介護における基本観察項目
訪問介護においてヘルパーが観察すべき項目は多岐にわたります。
身体面に限らず精神面や人間関係、住環境にいたるまであらゆる情報を網羅して観察することが重要です。
ここでは、「心身機能に関する項目」と「生活に関する項目」の2つに分類し、基本観察項目を紹介します。
心身の機能に関する観察項目
頭部 | 頭髪の汚れやにおい、発疹の有無、など |
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顔 | 顔色、ぼんやりしていないか、活気の有無、むくみの有無、など |
声 | 声色やトーン、発声のしにくさはないか、など |
目 | 充血の有無、白目が黄色くなっていないか、目やにの有無、まぶたのむくみがないか、見えにくそうにしていないか、など |
鼻 | 鼻水や鼻づまり、くしゃみはないか、嗅覚の低下はないか、など |
口腔 | 口臭の有無、唇の色、乾燥していないか、口腔内のただれや炎症の有無、舌の色や苔の有無、歯の状態や咀嚼力、義歯の状態、など |
のど | 炎症、咳、痰の有無、嚥下の機能、など |
耳 | 耳垢や耳鳴り、耳だれの有無、聴力の低下はないか、など |
皮膚 | 傷や腫れ、むくみ、発疹、乾燥、汗、かゆみの有無、など |
爪 | 爪の色、爪がのびていないか、など |
上下肢 | 関節の変形の有無、可動域、腫れ、痛みの有無、筋力低下はないか、など |
姿勢、動作 | 寝返り、起き上がり、座位、立位などの起居動作の状態、歩行時の状態(ふらつきがないか、など) |
痛み | 痛みの程度、痛みの質(刺し込む痛み、押さえると痛いなど)、痛みのパターン(ずっと痛いのか、痛みに波があるのか、時間帯によって異なるのかなど)、いつから痛みがあるのか、など |
バイサルサイン | 体温、血圧、脈拍、意識レベル |
会話 | 発語の有無、声かけに対する反応、不自然な言動の有無、理解力はあるか、など |
心 | 喪失感、孤独感、不安感、意欲の有無、など |
認知機能 |
|
生活に関する観察項目
食事状況 | 食事量、水分量、栄養バランスはとれているか、食欲の有無、好き嫌い、味覚、嗜好の変化の有無、など |
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排せつ状況 | 便・尿の量や性状、回数、排せつ時の痛みや不快感の有無、排尿の出にくさはないか、など |
服薬状況 | 医師からの指示通りに薬を飲めているか(過剰摂取はないか)、副作用の有無、など |
運動 | 外出の頻度はどの程度か、など |
生活リズム | 夜間の睡眠状況や日中の過ごし方、など |
社会との関わり | 社会活動への参加の有無、意欲の有無、他者との関わり(知人の来訪など)はあるか、など |
家族との関わり | 家族との関係性や関わりの頻度、など |
住宅環境 | 自宅内の段差の有無、手すり等の福祉用具の設置の有無、移動時の導線は確保されているか、温度や湿度、ドア・ふすま・物品等の老朽化など |
その他 (生活全般) |
など |
ヘルパーの気づく力を高める4の法則
優秀なヘルパーは、みなすべからく「気づく力」を持っています。
利用者の変化をいち早く察知し、些細な異変も見逃さない、そんな“できる”ヘルパーを目指したいものです。
では、観察眼を養い、気づく力を高めるためには、なにをどのように実践すれば良いのでしょうか?
ここではヘルパーの気づく力をぐんと伸ばす法則を4つ紹介します。
\ 気づく力を高める4の法則 /
- 「いつも」の状態を正確に把握する
- 重点的に観察すべき項目を利用者ごとにカスタムする
- 利用者の主訴と客観的な事実を分けて捉える
- 気づく力を下げる現状維持バイアスから脱する
法則1:「いつも」の状態を正確に把握する
異変に気づくためには、利用者の“いつも”の状態を正しく把握しておく必要があります。
当たり前に感じるかもしれませんが、できていないヘルパーが意外と多いです。
現在地が分からなければ、道がそれていることに気づけません。気づく力が低いヘルパーは、現在地があやふやになっていて現状を正しく把握できていないわけです。
一度、自身の仕事を振り返ってみましょう。
普段からなんとなく利用者と関わり、なんとなく作業をこなしているだけになってはいませんか?
もしそうであるなら、まずはいつもの利用者を注意深く観察することから始めてみてください。
先にあげた基本観察項目は、利用者の異常を早期に発見するためであると同時に、利用者の通常時を正しく把握するためでもあるのです。
法則2:重点的に観察すべき項目を利用者ごとにカスタムする
訪問介護は、物ではない「人」を相手にする仕事です。
当然ながら同じ利用者はひとりとして存在せず、それぞれに特性があります。ですから、一律的な観察手法を用いるのではなく、個々に合わせて観察項目をカスタマイズすることが重要です。
例えば、「便秘傾向にあるので排泄状況を重点的に観察する」「前回サービス時にふらつきがあったので、歩行状態を重点的に観察する」といった具合に。
また、その方の疾患によっても観察すべき項目は変わりますので、あらかじめ医師から指示を得ておくことも必要でしょう。
このように、どこに比重を置くのかを利用者ごとに最適化することで、観察の質がより深まります。
法則3:利用者の主訴と客観的な事実を分けて捉える
利用者からの訴え・言動とヘルパーから見た客観的な事実を、混同しないよう注意してください。
例えば、ある日の利用者の顔色がいつもより優れない(客観的な事実)と気づいたが、「大丈夫です」(主訴)と言われたとします。
ここで主訴と客観的な事実をひとくくりにし、「本人が大丈夫と言ってるし問題ないか」と、観察を止めてしまってはいけません。なぜなら、体調に異変があっても「迷惑をかけたくない」「他人に弱みを見せたくない」と無理をする利用者もいれば、自覚症状がない場合もあるからです。
主訴と客観的な事実を切り分け、利用者の挙動や先の基本観察項目の観察を続けましょう。
客観的な事実を積み上げることで、「腹痛があるのではないか」「○○に不安があるのではないか」「夜間に十分な睡眠がとれていないのではないか」と、はじめて仮説を立てられます。
これは利用者の主訴や言動を「信じる」「信じない」の話ではなく、双方を切り分けて正しく解釈し、総合的に利用者を捉えることが大切だということです。
それによりヘルパーの気づきは、一歩先に進んだものとなるでしょう。
法則4:気づく力を下げる現状維持バイアスから脱する
ヘルパーの気づく力を下げる落とし穴に「現状維持バイアス」という心理作用があります。
バイアスとは「思い込み」や「先入観」を指し、現状維持バイアスとは、変化に対する抵抗感や不安感から、現状維持を望む心のメカニズムです。
- 会社で嫌なことがあっても転職に踏み切れない
- いつも行きつけの店で、同じメニューを頼む
- 髪型を変えようかな、と思っても結局おなじ髪型のまま
こんな経験をしたことはありませんか?
人は、未知なものや未体験のものに恐怖を感じたり、変化することに損失を感じたりするもの。そのため無意識に現状を保とうとする傾向が強いと考えられています。
実は、この現状維持バイアス、訪問介護の現場でもしばしば発生します。
例えば「いつも元気な利用者だからと、観察を怠る」といった状況です。訪問介護の利用者には、ほとんど変化のない利用者も多く、どうしても体調が不安定な方と比べて観察の優先順位が下がりがち。
しかし、「いつも元気だから大丈夫」という先入観や思い込みは、観察の視野を狭め、些細な変化を見落とす要因になります。
もしかしたら、その方は元気なように見えて重大な疾患が隠れているかもしれません。
あるいは心配事を隠しているのかもしれません。
こうした変化を見逃さず、現状維持バイアスから脱するためには、利用者の状態がずっと維持されるわけではないことを十分に認識する必要があります。
そもそも訪問介護を利用している時点で、なにかしらの問題を抱えているわけです。加齢や疾患、障害により心身の機能が低下している利用者は、いつなんどき異常異変が発生してもおかしくないことを念頭に置き、日々のサービス提供にあたりましょう。
【チームケア】観察と情報共有はセット
観察や気づきから得た情報は、ケアサービスに活かされてはじめて意味のあるものになります。
そのために忘れてはいけないのが、利用者に関わっている多職種間で情報を共有すること。
在宅介護は、以下図のとおりケアマネを中心に、訪問介護を含めて医師や看護、リハビリ、栄養士、デイサービス、福祉用具などの専門職が連携を図ることで成り立ちます。
これをチームケアと言い、訪問介護は、得た情報をチームの一員として他職種に共有しなければなりません。
訪問介護の専門性は「生活」に視点をおいて利用者を観察することです。他職種には得にくい自宅内の生活状況や心身の変化といった貴重な情報をしっかり共有しましょう。
逆に、訪問介護のみの視点では得られない情報を他職種から受け取り、ケアサービスに活かします。
例えば、医学的所見にもとづいた医療面の情報を医師や看護から、自宅外の利用者の情報をデイサービスから、といったように。
こうした専門職間の連携が、医療・介護の継ぎ目のないサービス提供へとつながります。
訪問介護内での情報共有
また、他職種へ訪問介護ならではの情報を的確に伝えるためには、訪問介護内でのヘルパー間の情報共有が欠かせません。
訪問介護は、週替わり日替わりで複数のヘルパーが利用者へサービスを提供します。ですから、前回以前の利用者の情報を引き継ぎ、ふまえた上で今回のサービス提供に臨む体制が必要です。
具体的には、サービスごとに観察から得られた情報を提供記録や連絡ノートに記録し、さらにサービス提供責任者へ報告して共有を図りましょう。
単独で仕事をするヘルパーは、どうしてもチームの意識が薄くなりやすいかと思います。しかし、数ある在宅サービスの中で、もっとも利用頻度が高く、もっともサービス提供回数が多い訪問介護は、いわば在宅サービスの“要”です。
ヘルパーのみなさんは、利用者の在宅生活を支える重要なポジションにあることを自覚し、些細な変化でも記録に残し、サービス提供責任者へ逐一報告しましょう。
【さいごに】観察の本質は「なぜ?」を繰り返して仮説を立てること
これまで、本マニュアルでは訪問介護における観察について網羅的に解説してきました。
基本的には本マニュアルを参考に実践してもらえれば、観察眼や気づく力は自然と養われていくかと思います。
ただ、最後にヘルパーのみなさんに徹底してほしいことがあります。
それは目の前にある出来事に“疑問を投げかける”ことです。
例えば、ある日の利用者が移動時にふらついていたなら、「なぜふらつきがあるのか?」を考えましょう。そこには、熱発がある、下肢筋力が低下している、眠剤が残っている、など原因が必ずあるはずです。
観察の本質とは、得た情報に「なぜ?」と繰り返し追及し、仮説を立て検証し、サービスを改善していくことにあります。
ぜひ観察で得られた情報を、得たまま終わらすのではなく、疑問を持ち続ける姿勢を忘れないでくださいね。
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この機会にあわせてチェックしておきましょう。