「できることは自分でしてもらう」とか「自立した生活を…」ってよく言われるけど、そもそも自立支援ってなに?ヘルパーはなにをすればいいの?
ヘルパー会議室では、こんな疑問を解消すべく訪問介護の「自立支援」実践ガイドを作成しました。
本ガイドは、介護保険法における自立支援の基本的な考え方や、展開の方法を解説した入門書です。自立支援の実践的な手法をわかりやすく体系的に学べるよう構成しています。
また本ガイドの後半では、介護保険法と障害者総合支援法の「自立観の違い」についても説明していますので、ぜひ最後まで読み、日々の業務にご活用ください。
本ガイドは、ヘルパー研修の資料としても使えます。
研修テーマ集:【研修資料つき】訪問介護のヘルパ-勉強会テーマ53案
介護保険法における自立支援の考え方
訪問介護の根拠法である介護保険法第一条には、「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう…」と、自立支援について示されています。
ここで言う「自立」が意味するものは、リハビリテーションやサービスの利用により介護予防を強化し、要介護状態の維持・改善を図ることです。
そのため介護保険制度では、日常生活に関するもののみをサービスの対象としており、「できることは自分でする」という考え方を基本としています。
訪問介護が着目するのは日常生活の自立
そもそも「自立」とはどのような状態を指すのか?というと、自立には以下3つの側面があります。
- 日常生活自立
起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容などのADL(日常生活動作)や買い物・料理・掃除・洗濯などのIADL(手段的日常生活動作)などの身体的な自立。 - 社会生活自立
社会の構成員(会社や自治会、町内会、ボランティアなど)としての役割があること。社会の中で守るべき法令やルールなどに従って社会参加している状態。 - 精神的自立
自らの人生や生活を主体的に生きること。自分の意思で物事を判断、決定して自らの責任で行動すること。
これら3つの側面は、それぞれが相互に影響を与え合うものと考えます。
例えば、身体的な面が少しでも自立すれば、社会参加の機会が増え、さらに社会との接点が増えることで、自分の人生や生活に対する主体性がうまれる、というように。
そして、このうち訪問介護領域の自立支援で、主に着目するのは「日常生活の自立」です。
多くの高齢者は、長年にわたって日常生活、社会生活、精神的な面で自立した人生を送ってきており、加齢や病気などにより日常生活の自立のみ失われていく、といった経過をたどり訪問介護サービスの利用に至ります。
そこで、訪問介護では、日常生活を営む上で必要な行為(ADL、IADL)を、利用者が自ら行えるよう促し、以前の生活をできるかぎり取り戻す支援を目指します。
これが訪問介護における自立支援です。
日常生活の自立を促していくことで、利用者のQOL(生活の質)が向上し、さらに家族負担の軽減にもつながっていきます。
家政婦とヘルパーの違いからみる自立支援
「ヘルパーは家政婦やお手伝いさんではない。」
こんな言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
双方の違いは、自立支援を目的としているかどうかにあります。
家政婦やお手伝いさんは、本人ができるできないにかかわらず、依頼された仕事はすべて行います。
対して、ヘルパーは、利用者本人ができることの手助けは基本行いません。自分でできることを減らさず、可能であれば増やしていけるよう支援するのが訪問介護の役割です。
家政婦やお手伝いさんのような手厚いサポートは、本人にとって楽ですが、自分でできるにもかかわらず最初から最後まで代行してしまうと、利用者の残存機能は低下していく一方です。さらに、自らの生活を主体的に生きるという“その人らしさ”も同時に失われていくでしょう。
身体機能が衰えていても、病気があっても、できることはたくさんあります。また、できないことでも工夫次第ではできるようになる場合もあります。
訪問介護の自立支援では、こうした利用者のできることをきちんと見極め、できないことをどのようにすればできるようになるのか検討する姿勢を、専門職としてヘルパーには求められるのです。
放置=自立支援ではない
手厚いサポートは、時として利用者の自立を妨げる要因となりますが、かといって、見て見ぬふりをしたり、突き放したりすることが自立支援ではありません。
日常生活の援助を求めている利用者に対して、自立支援をかざし放置するのは単なる仕事放棄です。
ヘルパーが相手にしているのは物ではなく人であることを忘れないようにしましょう。生活意欲が低下しているなら、「自分でやってみよう」とやる気を引き出す働きかけがなにより重要です。
例えば
- 部屋を掃除しただけで、気分が変わり活動的になった
- 毎朝、服を着がえただけで自ら髪をとかし、買い物に出かけるようになった
など、少しの働きかけがきっかけとなり、やる気が湧き出てくるものです。
これは、医療による治療やリハビリによる訓練ではなしえない、利用者の生活に密着した訪問介護ならではの意欲を引き出した例といえます。
自立支援には科学的アプローチが必要
自立支援を実践するうえで注意してほしいのは、ヘルパーの“勘”に頼らないこと。
とくに経験豊富なベテランヘルパーほど「このケースは○○だから」「この利用者は○○だから」と、勘に頼った支援になりがちです。
長年の経験から培われた勘そのものは否定しませんし、必要な場面もあります。しかし、勘に頼った支援では、ヘルパーによってばらつきが発生してしまい、期待する効果は得られません。
自立支援の実践には、その利用者の機能を正しく分析・評価する科学的なアプローチが必要です。
科学的というと難しいそうに思うかもしれませんが、要は「根拠」立てた支援を提供するということであり、それによりサービスに一貫性がうまれます。
次章から自立支援の具体的な展開方法を解説していきますので、ぜひこれから勘に頼らない支援の方法をまなんでいきましょう。
【4ステップ】訪問介護における自立支援の展開方法
ではここからは、訪問介護における自立支援の展開方法を4つのステップに分けて具体的に解説していきます。
\ 自立支援の展開4ステップ /
- STEP1土台づくり
水分・食事・運動・排便の4つの基本ケアによる自立支援の基礎固め。
- STEP2行為分析
利用者ごとのADL・IADLの細分化と機能評価。
- STEP3支援内容の検討
機能評価にもとづき、ヘルパーがなにをどのように支援するのかを検討。
- STEP4自立支援の導入
定めた支援内容を段階的に導入。
ステップ①:土台作り
ステップ①は、自立支援を展開するにあたっての土台作りです。
日本自立支援介護・パワーリハ学会理事長の竹内孝仁氏によれば、高齢者ケアには以下4つの基本ケアがあると提唱されています。
- 水分ケア
1日1500mlの摂取が目安。加齢にともない感覚器官が衰えることにより喉の渇きを自覚しにくくなります。水分不足は脱水や乾燥、認知症につながるため、こまめに水分摂取を促します。 - 食事ケア
1日1500kcalの摂取が目安。低栄養の状態が続くと、筋力低下や寝たきりや認知症につながります。また食事を摂らないことで嚥下機能や咀嚼力が低下し、誤嚥などのリスクも高まります。 - 運動ケア
1日2kmの運動が目安。ここで言う運動の中心となるのは歩行です。歩けるようになれば活動の範囲や選択肢が増えます。 - 排便ケア
3日以内の自然排便を理想とした排便コントロールを目指します。排便リズムを整えるためには、適切な水分摂取量、食事摂取量、運動量が必要です。
この4つの基本ケアは、人間が健康的に生きていくために欠かせない要素であり、これを実施することでほとんどのADLの課題は解決に向かうとされています。
ただし、上記で示した数値は、あくまで目安ですので必ずしもクリアする必要はありません。とはいえ、自立支援を展開する基礎となるものですから、疎かにすると、どのような支援を展開してもうまくいきません。
自立支援を展開する前段階として、まずはこの4つの基本ケアに視点を置き、サービス提供にあたってください。
ステップ②:行為分析
繰り返しになりますが、訪問介護における自立支援は、日常生活を営む上で必要な行為を、利用者自ら行えるように促していく支援です。
そのためには、利用者の現有能力を正しく把握する必要があり、ステップ②では、ADLやIADLに対する機能を評価する「行為分析」を行います。
ADL・IADLの細分化
行為分析で第一に行うのは、一連のプロセスで形成されているADL・IADLの細分化です。
例えば、ADLのうち、排せつであれば「①居室からトイレへ移動⇒②ズボン、下着をおろす⇒③排便・排尿⇒④清潔動作⇒⑤ズボン、下着をあげる⇒⑥居室へ移動」という具合に、①~⑥の複数の動作の連続で成り立っていることがわかります。
このように、線を点に分解するイメージでADL・IADLを細分化していきます。
普段、私たちはADL・IADLを何の気なしに行っているため、いまいちピンと来ないかもしれませんが、以下の例を参考に細分化してみましょう。(※あくまで例ですので、実際の現場に合わせてカスタマイズしてください。)
\ ADLの細分化の例 /
- 左右どちらかに寝返りをうつ(側臥位)
- 上体を起こし、起き上がる
- ベッドの淵に座る(座位保持)
- 立ち上がる(立位保持)⇒ポータブルトイレや車いすに乗り移る(移乗)
- 立ち上がる(立位保持)⇒歩く(移動)
- イスに座る(べットの背もたれを上げて座位を保つ)
- 食卓にある食器(茶碗、汁椀、皿、コップ、箸orスプーン)、食べ物を視認する
- 箸やスプーンを持つ
- 皿まで手を伸ばす
- 皿をもち、近くに引き寄せる
- 箸やスプーンで皿の中の食べ物をつかむ(すくう)
- 食べ物を口へ運ぶ、噛む、飲み込む
- 茶碗をもつ
- 箸やスプーンで茶碗の中の米をつかむ(すくう)
- 米を口へ運ぶ、噛む、飲み込む
- 茶碗を置く
- 汁椀をもつ
- 汁椀を口まで持ってくる
- 汁椀から汁物をすする、噛む、飲み込む
- 汁椀を置く
- コップをもつ
- コップを口まで持ってくる
- 水分を口にふくむ、飲み込む
- コップを置く
- 着替え、下着を準備する
- 上着のボタンを外す
- 上着を肩までずらす⇒左右の腕を抜き脱衣する
- 肌着の襟元から頭を抜く⇒左右の腕を抜き脱衣する
- 肌着に左右の腕を入れる⇒襟元から頭を入れ着衣する
- 上着に左右の腕を入れる⇒上着を肩まであげ整える
- 上着のボタンをとめる
- 立ち上がる
- ズボンと下着を臀部下部付近までおろし座る
- 左右の足からズボンと下着を抜き脱衣する
- 左右の足からズボンと下着を入れ、膝の上まであげる
- 立ち上がる
- ズボンと下着を腰付近まであげ着衣する
- 前かがみになり左右の靴下を脱ぐ
- 前かがみになり左右の靴下を履く
- 居室からトイレへ移動する
- ズボン、下着をおろす
- 排便・排尿
- 清潔動作
- ズボン、下着をあげる
- 居室へ移動する
- 居室から脱衣所へ移動する
- 衣類、下着を脱衣する
- 脱衣所から浴室へ移動する
- シャワーをかける
- シャンプーを手に取る
- 髪を洗う
- シャワーですすいで泡をとる
- 洗身用タオルにボディーソープをかけ泡立てる
- 上半身を洗う
- 下半身を洗う
- シャワーで泡を流す
- 浴槽を跨いでつかる
- 浴槽を跨いで出る
- 浴室から脱衣所へ移動
- 体をバスタオルでふく
- 衣類、下着を着衣する
- 脱衣所から居室へ移動
- 水を口に含む
- ブクブク、ガラガラうがいをする
- 歯ブラシに歯磨き粉をつける
- 歯をブラッシングする
- コップから水を口に含む
- うがいをする
\ IADLの細分化の例 /
- 掃除道具の準備
- 雑巾を濡らして絞る
- 家具・テーブルを拭く
- 床の掃除機をかける
- 床を拭く
- 身の回りの物を片づける
- 掃除道具を片づける
- 雑巾を洗って干す
- 掃除道具の準備
- 便器の内側に洗剤をかける
- 便器の内側をブラシでこする
- 便座を拭く
- 便座の外側を拭く
- 床を拭く
- 掃除道具を片付ける
- 献立を考える
- 調理器具と食材を準備する
- 材料を切るなどの下ごしらえ
- 食材に火をとおす
- 味付けをする
- 食器に盛り付ける
- 配膳をする
- 下膳をする
- 食器洗いなどの後片付けをする
- 洗濯機に洗濯物を入れる
- 洗濯機に洗剤や柔軟剤を入れる
- 洗濯機を回す
- 洗濯機から洗濯物を取り出して洗濯かごに入れる
- 洗濯かごをベランダまで運ぶ
- 洗濯物を洗濯バサミにつけて干す
- 洗濯物をハンガーにかけて干す
- 洗濯かごを片付ける
- かわいた衣類などを取り込む
- かわいた衣類などをたたむ
- たたんだ衣類などを片付ける
- 購入する商品を決める
- 購入する店を決める
- 店に行く
- 店内を移動して商品を選ぶ
- 金銭を支払い商品を購入する
- 購入した物を持って家に帰る
- 購入した物を片付ける
機能評価
次に、分解したプロセス動作一つひとつと、現時点での利用者の状態を照らし合わせ機能を評価します。
機能評価は、
- 普段からしていること
- やろうと思えばできること
- やろうとしてもできないこと
の3つの視点で行い、利用者の機能を可視化します。
加えて、「やろうとしてもできないこと」については、身体機能が低下しているからできないのか、疾患や障がいによりできないのか、それとも技術的にやったことがないからできないのか、など原因も併せて分析しましょう。
例えば、以下のように機能を評価し、整理します。(※架空の利用者です。表内の番号は、ADL・IADLの細分化の例と連動しています。)
\ ADLの機能評価の例 /
起居・移動・移乗 |
|
---|---|
食事 |
|
更衣 |
|
排せつ |
|
入浴 |
|
整容(歯磨き、うがい) |
|
\ IADLの機能評価の例 /
居室掃除 |
|
---|---|
トイレ掃除 |
|
調理 |
|
洗濯 |
|
買い物 |
|
「行為分析」は、訪問介護が行うアセスメントのひとつです。本来、アセスメントはサービス提供責任者が行うものですが、普段から利用者とかかわっているヘルパーも理解しておくべきものです。
ステップ③:支援内容の検討
ステップ③では、先ほど分析・可視化した利用者の機能にもとづき、支援内容を検討します。
具体的には
- 普段していることは⇒継続して利用者自ら行ってもらう
- やろうと思えばできることは⇒利用者自ら行えるよう促す(声かけやヘルパーとの共同実践)
- やろうとしてもできないこと(技術的にやったことがない)は⇒ヘルパーとの共同実践で技術習得を目指す
- やろうとしてもできないこと(機能低下による場合)は⇒ヘルパーが代行する、代替手段を提案する、機能改善を目指す
というように、ヘルパーが「なにを」「どのように」支援するのかを明確にしていきます。
以下に例を3つ示しましたので、これらを参考に支援内容を検討してみましょう。(※ステップ②の機能評価の例と連動しています。)
\ 入浴の例 /
行為 | 機能評価 | 支援内容 |
①居室から脱衣所へ移動する | やろうと思えばできる | 利用者自ら移動するよう促し、ヘルパーは見守り・必要に応じて一部介助する。 |
②衣類、下着を脱衣する | やろうと思えばできる(上着のみ可、ズボン・下着は左上下肢マヒにより不可) | 上着のみ利用者自ら脱衣してもらうよう促す。ズボン・下着の脱衣はヘルパーが介助。 |
③脱衣所から浴室へ移動する | やろうと思えばできる | 利用者自ら移動するよう促し、ヘルパーは見守り・必要に応じて一部介助する。 |
④シャワーをかける | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。 |
⑤シャンプーを手に取る | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。 |
⑥髪を洗う | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。洗い残しがあればヘルパーが一部介助する。 |
⑦シャワーですすいで泡をとる | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。すすぎ残しがあればヘルパーが一部介助する。 |
⑧洗身用タオルにボディーソープをかけ泡立てる | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。 |
⑨上半身を洗う | やろうと思えばできる(前面のみ可、背面は左上下肢マヒにより不可) | 前面のみ利用者自ら洗ってもらうよう促す。(きちんと洗えていないようであればヘルパーが一部介助する) 背面の洗身はヘルパーが介助する。 |
⑩下半身を洗う | やろうと思えばできる(前面・膝上までのみ可、背面・膝下から足先にかけては左上下肢マヒにより不可) | 前面、陰部、膝上までは利用者自ら洗ってもらうよう促す。(きちんと洗えていないようであればヘルパーが一部介助する) 臀部、膝下から足先にかけてヘルパーが介助する。 |
⑪シャワーで泡を流す | やろうと思えばできる | 利用者自ら行うよう促す。泡が残っているようであればヘルパーが一部介助する。 |
⑫浴槽を跨いでつかる | やろうとしてもできない | バスボード等の入浴補助具を活用し、ヘルパーが一部介助する。 |
⑬浴槽を跨いで出る | やろうとしてもできない | バスボード等の入浴補助具を活用し、ヘルパーが一部介助する。 |
⑭浴室から脱衣所へ移動 | やろうと思えばできる | 利用者自ら移動するよう促し、ヘルパーは見守り・必要に応じて一部介助する。 |
⑮体をバスタオルでふく | やろうと思えばできる(頭部・前面・膝上までのみ可、背面・膝下から足先にかけては左上下肢マヒにより不可) | 頭部、前面、膝上まで利用者自らふいてもらうよう促す。(拭き残しがあればヘルパーが一部介助する) 背面、膝下から足先にかけてヘルパーの介助によりふく。 |
⑯衣類、下着を着衣する | やろうと思えばできる(上着のみ、ズボン・下着は左上下肢マヒにより不可) | 上着のみ利用者自ら着衣してもらうよう促す。ズボン・下着の着衣はヘルパーが介助。 |
⑰脱衣所から居室へ移動 | やろうと思えばできる | 利用者自ら移動するよう促し、ヘルパーは見守り・必要に応じて一部介助する。 |
\ 居室掃除の例 /
行為 | 機能評価 | 支援内容 |
①掃除道具の準備 | やろうとしてもできない(機能低下により重いものを持ち運べないため不可) | ヘルパーが代行する。 |
②雑巾を濡らして絞る | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
③家具・テーブルを拭く | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
④床の掃除機をかける | やろうとしてもできない(機能低下により屈めないため不可) | ヘルパーが代行する。 |
⑤床を拭く | やろうとしてもできない(機能低下により屈めないため不可) | クイックルワイパー等の代替を提案、ヘルパーと一緒に行い使い方を教える。(難しければヘルパーが代行する) |
⑥身の回りの物を片づける | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
⑦掃除道具を片づける | やろうとしてもできない(機能低下により重いものを持ち運べないため不可) | ヘルパーが代行する。 |
⑧雑巾を洗って干す | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
\ 洗濯の例 /
行為 | 機能評価 | 支援内容 |
①洗濯機に洗濯物を入れる | 普段からしている | 継続して利用者自ら行ってもらう。 |
②洗濯機に洗剤や柔軟剤を入れる | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
③洗濯機を回す | やろうとしてもできない(機械の使い方が分からないため不可) | 洗濯機の使い方をレクチャーし、ヘルパーと一緒に行う。 |
④洗濯機から洗濯物を取り出して洗濯かごに入れる | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
⑤洗濯かごをベランダまで運ぶ | やろうとしてもできない(機能低下により不可) | ヘルパーが代行する。 |
⑥洗濯物を洗濯バサミにつけて干す | やろうとしてもできない(洗濯ばさみにつけることは可、干すのは機能低下により不可) | 洗濯ばさみにつけるところまで利用者自ら行ってもらい(あるいはヘルパーと一緒に行い)、ヘルパーが干す。 |
⑦洗濯物をハンガーにかけて干す | やろうとしてもできない(ハンガーにかけることは可、干すのは機能低下により不可) | ハンガーにかけるところまで利用者自ら行ってもらい(あるいはヘルパーと一緒に行い)、ヘルパーが干す。 |
⑧洗濯かごを片付ける | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
⑨かわいた衣類などを取り込む | やろうとしてもできない(機能低下により不可) | ヘルパーが代行する。 |
⑩かわいた衣類などをたたむ | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
⑪たたんだ衣類などを片付ける | やろうと思えばできる | 利用者自ら行ってもらうよう促す。(あるいはヘルパーと一緒に行う) |
利用者の状態や生活状況によって異なりますが、基本的にはこういった具合で、支援内容を明確にします。
支援内容を検討する際は、「やろうと思えばできる」行為であったとしても、その行為を利用者自ら行うことで、『状態が悪化する』『転倒やケガのリスクがある』などの場合は、注意が必要です。
例えば、手指に関節リウマチがある利用者に、雑巾絞りなど手指を使う行為をさせてしまうと状態を悪化させる恐れがありますので、このような場合はヘルパーが代行する方が適しているといえます。
ステップ③は、訪問介護計画の策定を意味しており、サービス提供責任者の仕事です。
ヘルパーの支援内容が明確になったら、手順書の作成や担当ヘルパーへ周知共有し、サービスの統一を図りましょう。
ステップ④:自立支援の導入
ステップ④では、策定した支援内容を実際の介護現場に導入します。
自立支援の導入にあたってポイントとなるのは、「段階を踏む」ことです。導入時にステップ③で策定した支援内容の完遂を目指すのではなく、徐々に取り入れていきます。
例えば、長期間、居室の掃除をしてこなかった方に、自分でできることの“すべて”をいきなり自ら行うよう促してもうまくいきません。
なぜなら、その利用者が掃除を自ら行う「意欲」が高まっていないからです。意欲が低い利用者に対して「あれをやってください」「これもやってください」と伝えても、単に不親切なヘルパーだと思われてしまいます。
意欲を高めるためには、「身の回りのものをヘルパーと一緒に片付ける」など小さなことから少しづづ進め、成功体験を積み重ねることがとても重要です。
小さなことでも「できた」という成功体験は、「自らやろう」という意欲を高めます。意欲が高まれば「次は机の上を拭いてみよう」とステップアップにつながり、効果的に自立へ向けた支援を進められるのです。
利用者の状態は、日々変化するものです。
日によって時間によっても、できたりできなかったり。また、「一歩進んでは二歩下がる」という言葉があるのように、今日できたからといって明日もできるとはかぎりません。ですから、ヘルパーはその時々の利用者をしっかり観察し、いま必要な支援を見極めることが大切です。
「利用者自ら行ってもらう」「ヘルパーと一緒に行う」「ヘルパーが代行する」を適宜選択し、柔軟な対応をもって自立支援を進めてください。
自立支援を導入したら、サービスの経過をきちんと把握・共有しましょう。これをモニタリングと言い、アセスメント・訪問介護計画の策定と同様にサービス提供責任者の業務です。
自立支援には環境整備も含まれる
わたしたち介護職は、つい直接介護をしているときの利用者にばかり目を配りがちです。しかし、訪問介護の自立支援では、ヘルパーがかかわっていない時間帯の利用者の生活についても配慮しなければなりません。
なぜなら訪問介護というサービスの性質上、限られた時間・日数のみしか訪問しないため、1日をとおして利用者を見られないからです。これは、ヘルパーが直接かかわるのは、利用者の日常生活のほんの一部にすぎないことを意味します。
したがって、利用者が1人のときに「自らできることを自ら行える環境」を意識して整える必要があります。
使用した物品の置き場所
ヘルパーは、サービス提供時に利用者宅のいろいろな物品に触れることとなります。
この際、使用した後には物品を所定の位置に戻すのを忘れないようにしてください。
例えば、風呂掃除でバスボードやシャワーチェアなどの入浴補助具を移動させる場合、掃除をした後に入浴補助具がいつもの位置にセッティングされていなければ、利用者1人で入浴できません。あるいは入浴を試みても転倒してしまうかもしれません。
他にも、長時間の立位がつらく、イスに座りながら料理をされている利用者に対して、ヘルパーがイスを片付けてしまったら利用者1人での料理は難しくなるでしょう。さらに、こうした状況がつづけば自ら「料理をしよう」という意欲を削いでしまう恐れもあります。
このように物品の置き場所ひとつをとっても、利用者の自立をおおきく左右する要因になるのです。
導線の確保
利用者が自宅内を移動する手段は、おのおので異なります。
自立歩行の方や手すりをつたって歩行する方、杖を使い歩行する方、車いすで自走する方など、さまざま。
いずれの手段であるにせよ、ヘルパーに注視してほしいのは家の中の「導線確保」です。身体機能が低下している利用者が、自宅内で目的地まで移動できるのは導線が確保されている場合に限られます。
例えば、道中に物が置かれているなど障害物があると、自力でトイレまで移動できません。
自宅内を自力で移動できるかどうかは、その利用者の自立した生活に多大な影響をおよぼします。サービス時には、サービス後の先の生活を見越して1人のときに移動できるかどうか、導線の確認・確保をかならず行いましょう。
自助具の活用
利用者の状態に適した自助具を提案することも自立支援における環境整備のひとつです。
現代ではユニバーサルデザインの自助具や、高齢者・障害者向けの自助具が数多く販売されています。
例えば
- なべ、包丁、まな板、ピーラー、オープナーなどの炊事・調理用具
- コップ、皿、おわん、箸、フォーク、スプーンなどの食事用具
- 洗濯ハンガー、衣類ハンガー、糸通し、ハサミなどの洗濯・裁縫用具
など、一般的に認知されていない自助具も多く、必要に応じて提案・活用してみると良いでしょう。
以下、福祉用具のアビリティーズから自助具の詳細を確認できますので、参考にしてください。
ちなみにユニバーサルデザインとは「すべての人のためのデザイン」という意味で、年齢や障害の有無を問わず利用できる設計がされている製品のことです。
障害福祉における自立支援
これまで訪問介護の自立支援を解説してきましたが、これはあくまで介護保険法の自立観にもとづくものです。
障害福祉分野における自立とは考え方が異なるため、介護保険サービスの訪問介護とあわせて障害福祉サービスの居宅介護や重度訪問介護なども一体的に運営している事業所では、双方を混同しないよう注意しておかなければなりません。
ここでは、介護保険法と障害者総合支援法の「自立観の違い」を明らかにし、障害者への自立支援でヘルパーに求められる役割とはなにかを解説します。
介護保険と障害者総合支援法の「自立観」の違い
先に述べたとおり、介護保険法における自立は、リハビリテーションやサービスの利用により、介護予防を強化し要介護状態の維持・改善を図ることです。そのため、訪問介護では日常生活の自立に重きをおき、利用者のできることを減らさず、可能なかぎり増やしていけるような支援を目指します。
一方で、障害者総合支援法における自立は『自ら望む生活目標や生活様式を選択し、自らの生活を自らの責任で決定し、介護や支援を利用しながら主体的に生きること』を指します。
端的にいえば、
- 自己選択
- 自己決定
- 自己実現
が、可能な生活を自立と位置づけており、心身機能の維持や改善をそもそもの目的としていません。
つまり、介護保険法でいうところの「できることは自分でする」という日常生活の自立における基本スタンスを絶対的なものとは考えないということです。
それよりも、障害者が自分の人生を自ら決める「自己決定(精神的自立)」が最大限尊重され、地域社会で主体的に生きる「自己実現(社会生活自立)」を図ることが、障害福祉の自立では重要視されます。
障害福祉の自立観の背景にある「IL運動」
なぜ、障害福祉サービスは介護保険サービスと自立の考え方が異なるのかというと、その背景には人権意識の高まりやノーマライゼーション思想の普及、そして「IL運動(自立生活運動)」の影響があります。
IL運動とは、障害者自らが障害者の自立生活の権利を主張した社会運動です。
1960年代後半、アメリカカリフォルニア州で大学生だった重度の全身性障害をもつエド・ロバーツ氏から運動が始まり、1970年代にはアメリカ全土へまたたくまに拡大、その後、日本にも大きな影響を与えました。
IL運動で目指した自立観は、「自立=自己決定」。
日常生活の自立や経済的自立にかかわりなく、障害者が自らの人生や生活の場面で自ら選べば、介助を受けていても自立生活は成り立つ、と定義しました。
これは、従来の自立観である「自立=日常生活動作の達成」を真っ向から否定する新たな概念で、このことを示した有名なたとえ話に以下のようなものがあります。
つまり、いかなる障害があっても、さまざまな人的・物的資源を活用し、あたりまえに普通の生活を営めることが障害者にとっての自立であるといえます。
こうしたIL運動などにより確立されてきた新たな自立観が、今日の障害福祉サービスにもおおきな影響を与え、引き継がれているわけですね。
障害福祉の自立支援におけるヘルパーの役割
では、障害福祉サービスの自立支援においてヘルパーにはどのような役割が求められるのでしょうか。
先の障害福祉の自立観に照らし合わせると、それは『普通の生活をあたりまえに営むための下支え』ということになります。
例えば、利用者の夕食を準備するとしましょう。
この際、介護保険の訪問介護であれば、残存機能があるなら利用者自ら夕食をつくる、あるいはヘルパーと一緒に料理する、などにより日常生活の自立を促す支援を展開します。
対して、障害福祉サービスでは、利用者自ら行うか、ヘルパーと一緒に行うか、ヘルパーが代行するか、などの手段を問いません。どのような支援プロセスであっても、利用者がなにを食べたいかを自分で選択し、夕食を食べられること自体が大切になります。
他にも、例えば全盲の利用者が外出したいとき、どのような支援や介助を受けるかにかかわらず、どこに外出してなにをするかを自分で選択し、実際に外出(社会参加)できることが自立です。
この場合であれば、ガイドヘルパーが道中や目的地での視覚情報の提供などを行い、危険なく外出を完遂することそのものが自立支援といえるでしょう。
このように、生活の過ごし方を自分で決められて、実際にそれが実現する。
すなわち自己決定(精神的自立)と自己実現(社会生活自立)が図れる生活環境を整えることが障害福祉サービスの自立支援であり、ヘルパーの役割です。
障害者の多くはADLやIADLなどの実行機能レベルがある程度の段階で止まってしまいますので、これらを自ら行えるようになるのが重要ではなく、社会生活を営むために必要な「依存先」を見つけることがとても大切です。
ただ、もちろん利用者の障害種別や状態によっては日常生活の自立を目指す支援もあります。例えば、精神障害者(発達障害を含む)の中には、生活行為を自ら行えるようになる可能性がある方もいますので、こうした方々の将来的な社会参加や社会復帰に向けて、必要な行為をヘルパーと一緒に行うなどの支援を実施します。
さいごに
訪問介護の自立支援実践ガイドは以上となります。
かなりの長文となりましたが、本ガイドを読み込んでもらえれば実際の介護現場でも活かせるはずです。
また、介護保険の訪問介護だけでなく障害福祉サービスも提供することがあるなら、双方の違いをよく理解したうえでサービス提供にあたってくださいね。
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この機会にあわせてチェックしておきましょう。