訪問介護で働き始めて間もない初心者ヘルパーです。
今度初めて買い物代行をすることになりました。
注意点があれば教えてほしい…。
今回は、こんな悩みにお答えすべく訪問介護の「買い物代行マニュアル」を作成しました。
本マニュアルは、初心者ヘルパー向けに買い物代行の基本をまるっと解説した入門書です。本マニュアルを読むことで、買い物代行とはどのようなサービスで、なにに注意してどう実施すべきかをすべて理解できます。
また、サービスの設計にあたって必要な視点についても触れていますので、ヘルパーに限らずサービス提供責任者の方もぜひ参考にしてください。
本マニュアルは、介護サービス情報公表制度により求められている生活援助マニュアルの一部としても使えます。自事業所用にアレンジして活用してくださいね。
訪問介護の買い物代行とは?
訪問介護の買い物代行とは、利用者の代わりにヘルパーが単独で店舗へ出向き、食品や日用品等の購入を行う生活援助サービスです。掃除や調理などと並んで利用頻度が高く、利用者の生活基盤を整える上で欠かすことができない支援のひとつになります。
利用者とのトラブルにつながりやすいサービス
人間が暮らしを営むには、衣食住に関する生活必需品をなにかしらの手段で入手しなければなりません。
そのため、自身で買い物に行けない利用者にとって、在宅生活を維持・継続する上で、買い物代行はとても大切な役割を担っていると言えます。しかし、一方で利用者とのトラブルにつながりやすい性質を多分に孕んでおり、細心の注意を求められるサービスでもあります。
というのも、あらゆる訪問介護業務の中で、唯一、利用者の金銭を取り扱うサービスが買い物代行だからです。ヘルパーは訪問の都度、利用者からお金を預かって買い物に行くことになり、金銭の取り扱いを誤ればヘルパーへの苦情、ひいては事業所の信用問題にも大きく関わります。
加えて、制度への理解不足から範囲外の買い物を依頼してくる利用者や、極端に品数・量が多い買い物を依頼してくる利用者など、トラブルに発展しかねないケースも多く、こうした状況を防ぐためにサービスの実施方法や手順等をうまく設計するプランニング能力も必要になります。
訪問介護における買い物代行の範囲
訪問介護は介護保険法にもとづく社会サービスであり、相応の制限が設けられています。
利用者から頼まれたからといって、なにを購入しても良いわけではありませんし、どの店舗に出向いても良いわけではありません。可否の範囲が定められており、この点に留意してサービス提供に臨む必要があります。
ここでは、買い物代行における品物・店舗・決済手段に関する可否の範囲を紹介します。
※本項の内容は、ヘルパー会議室運営部による調査にもとづく独自解釈です。算定の可否は、利用者の生活実態や世帯状況等を鑑みた上で判断するものであり、自治体によっても異なりますので、本項はあくまで目安とお考えください。実際の運用にあたってはケアマネジャーとの相談および各自治体等に確認をお願いします。
購入できる品物の範囲
買い物代行でヘルパーが購入できる品は、日常生活上で欠かせない必需品であり、それがなければ生活が成り立たないものを指します。これに該当しないものは原則として買えません。
- 日用品(食器洗剤、洗濯洗剤、ラップ、ゴミ袋、ティッシュ、トイレットペーパー、殺虫剤、電池、電球、蛍光灯など)
- 食品(食材や調味料など)
- その他(下着、肌着、寝間着などの日常で着る服や生活家電など)
- 利用者本人以外のもの
- 趣味嗜好品(タバコ、アルコール、雑誌類など)
- 贈答品(お中元やお歳暮など)
- その他(外出着や家具、娯楽品など)
※上記の購入できないものであっても、自治体によっては例えば、日用品を購入するついでに趣味趣向品の一部を一緒に購入する、などであれば認められる場合があります。(ただし、この場合、趣味趣向品を中心とした買い物となってしまうと報酬返還の対象となる場合もあるため要注意)
参考:買い物代行で「買っていいもの」と「買ってはいけないもの」
店舗の範囲
買い物代行に出向く店舗の範囲は、原則として利用者の生活圏域内にある店舗であり、かつ必要な日用品等が購入できる店舗のみに限られます。
したがって、家の近所にスーパーがあるのに「安いから」といった理由で遠方のスーパーに行くことは認められませんし、一店舗で必要な日用品等を入手できるにもかかわらず「スーパーA⇒スーパーB」と複数の店舗を回るということも認められません。
ただし、最寄りの店舗ではない別の店舗で購入する以外に代替方法がない場合や、ひとつの店舗で日用品等が揃わない場合などにおいては、買い物に要する標準的な時間の範囲内で遠くの店舗で購入したり、スーパー⇒ドラッグストアへと複数の店舗を跨いで購入したり等の対応は可能と考えます。
その他、地域によっては利用者宅の近所にスーパー等の店舗がない場合もあるかと思われ、こうした地域においても遠方の店舗で買い物することは可能と考えて差し支えないでしょう。
前回の訪問時、あるいは電話等により事前に利用者から購入すべき商品を確認し、ヘルパーが店舗で購入してから利用者宅へ訪問することは制度上認められています。(あらかじめ訪問前に買い物をする必要性・妥当性を十分に検討し、その旨をケアプランに明記しておくこと)
なお、この場合の算定方法は、「買い物に要する標準的な時間および利用者の居宅における訪問介護に要する標準的な時間を合算したものとすること」とされていますので、事業所⇒店舗⇒利用者宅にかかる移動時間は除算してください。
参考:平成24年3月16日 厚生労働省老健局 介護保険最新情報 Vol.267
参考:訪問介護で「訪問前の買い物」は可能?
決済手段(支払い方法)の範囲
買い物代行に用いる決済の手段は、現金で支払うのが基本です。
クレジットカードは約款(利用規約)上、本人以外の利用を禁止しているためヘルパーが使うことはできません。ただし、商品券やプリペイドカード、その他、現金をチャージするタイプのカードであれば、現金と同様の扱いと捉えることができ、買い物代行で使用しても問題ないと考えます。
訪問介護の買い物代行「5つの基本」
訪問介護の買い物代行は、以下5つの基本を守り実施します。
- 利用者の要望および代替品の確認
- 利用者宅のストックの確認
- 自立支援を取り入れた支援の展開
- 購入した品物の利用者確認
- 預り金とおつりの利用者確認
基本1:利用者の要望および代替品の確認
利用者が購入したい商品の要望を確認します。
どの商品をどのくらい欲しいのかを聞き取り、間違いのないようメモをとりましょう。
例えば、醤油一つとっても、さまざまなメーカーがあり、利用者によってこだわりや好みがあるものです。また薄口なのか濃口なのか、大きいサイズなのか小さいサイズなのか、などたくさん確認すべきことがあります。
特に新規のケースで、まだ利用者のパーソナリティがわかっていない段階では、その方の理解を深めつつ、商品名や量などをできる限り詳細に確認してください。
加えて要望を聞き取る際には、目当ての商品が売切れていた場合に、代替品が必要なのか?代替品が必要ならどの商品が良いのか?もあわせて確認しましょう。
「○○が売ってなかったので△△を買ってきました」と利用者の了解を得ず、代替品を購入してしまうと苦情につながるおそれがあります。勝手な判断をせず、あらかじめの相談、確認を忘れず行ってください。
基本2:利用者宅のストックの確認
認知症等により認知機能が低下している利用者の場合、自宅内に十分なストックがあるにもかかわらず買い物を依頼されることがあります。
このようなケースでは、要望の確認時にどの程度ストックがあるのかを確認したり、日ごろのサービス提供の中でストックを把握しておいたり、とヘルパー側の在庫管理が必要です。
洗剤などの日用品であれば多めにストックしても問題はありませんが、食品となると腐らせてしまいます。
また、逆に本来購入すべきものを依頼し忘れることもありますので、その利用者の認知機能に応じて、ストックの確認・把握を意識的に実施しましょう。
基本3:自立支援を取り入れた支援の展開
介護保険の基本理念は、自立支援です。利用者自らできることを減らさず、可能であれば増やしていけるよう支援するのがヘルパーの役割であり、買い物代行においても自立支援の実践を求められます。
例えば
- 購入したい商品と購入する店舗をヘルパーと一緒に考える
- 購入したい商品の買い物リスト(メモ)を作成しておいてもらう
- 購入した商品をヘルパーと一緒に片付ける
など、利用者の現有能力に応じて自立支援を取り入れてみましょう。
ヘルパーがなんでもかんでも代行する行き過ぎた支援は、利用者の残された機能を低下させ、さらには利用者の未来(可能性)も奪ってしまうのだと自覚してください。
また、自立支援を効果的に行うためにはアセスメントを的確に行うことが重要です。本来、サービス提供責任者がアセスメントを行いますが、ヘルパーも知識として知っておくと良いでしょう。
参考:訪問介護の「自立支援」実践ガイド【考え方と展開方法を4ステップで解説】
基本4:購入した品物の利用者確認
買い物代行から帰宅後には、購入した品物を利用者に見せて確認してもらいます。
一つひとつ品物を利用者へ見せて一緒に確認し、所定の場所へ片付けましょう。
購入した品物を利用者に確認してもらうことは、トラブルの防止につながります。後になって「頼んだものと違う」や「卵が割れている」など苦情が寄せられる場合もありますので、必ず確認してもらってください。
なお、商品を間違えて購入してしまった場合や、品物が破損している場合は、ヘルパーの自己判断で弁償などの対応をしてはいけません。その前にサービス提供責任者や事業所へ連絡を入れて、どのように対応すべきか指示を仰ぎましょう。
基本5:預り金とおつりの利用者確認
居宅という密室の空間で、かつ単独で仕事をするヘルパーは、利用者や家族からあらぬ疑いをかけられやすい条件がそろっていると言えます。中でも金銭のトラブルはかなり巻き込まれやすく、利用者のお金を取り扱う場面では慎重に対応しなければなりません。
お金を預かる際には「○○円預かりますね」と声をかけ、帰宅後には品物とレシートを照らし合わせて「お釣りは○○円です」とヘルパー・利用者の双方でしっかり確認しましょう。
さらに家族や事業所が把握できるよう、サービス提供記録などの帳面にも「預り金・代金・おつり」をきちんと記録しておいてください。(チャージ式のカードであっても買い物前後の残額を確認して記録すること)
このように対応することは、万が一トラブルに発展した場合に、ヘルパー自身の身を守る一助となります。
買い物代行における適切なサービス設計の方法
本マニュアル内で何度か述べてきたとおり、訪問介護の買い物代行は、利用者とのトラブルにつながりやすいサービスです。では、どのようにしてトラブルを未然に防ぐのか?というと、ヘルパーが注意してサービス提供にあたるのは前提として、サービス提供責任者が支援方法・手順等を設計する段階からリスクマネジメントに取り組む必要があります。
そこで、重要になるのがトラブルを誘引する可能性のある事項について、あらかじめルールを取り決め、利用者・家族等と事業所間で共有しておくことです。
ここでは、「買い物の範囲」「買い物量」「金銭の取り扱い」の3つに分けて、それぞれの取り決めルールの設定および周知・共有方法について解説します。
①買い物の範囲に関するルール
先の「訪問介護における買い物代行の範囲」で解説した制度ルールに対する理解を、利用者や家族へ促していくのはサービス提供責任者の仕事です。
契約時などで重要事項を説明する際に、ヘルパーの業務範囲について丁寧に説明して理解を求めます。できれば簡易的なパンフレットや一覧表を手渡しておくと良いでしょう。
あらかじめ利用者へ説明しているという事実があることで、現場のヘルパーが制度範囲外の依頼を直接されたときに断りやすくなります。
とはいえ契約時に説明していても、忘れてしまう利用者は多いです。ですので、ヘルパーからの報告等を通じて定期的にサービス状況を把握し、必要に応じてサービス提供責任者から繰り返しの説明を行ってください。
②買い物量に関するルール
利用者によっては、1回のサービス内で極端に多量の買い物依頼をしてくる方がいます。
中には大ビニール袋3~4つ分の荷物を抱えて、やっとの思いで持ち帰るといったこともあり、ヘルパーの不満につながるケースが少なくありません。また、帰宅途中の交通事故や品物の破損などを引き起こすおそれもありますので、サービス設計の時点で意図的に買い物量を調整することが必要です。
例えば、1週間分の食品・日用品等を1回でまとめて購入するのではなく、週3回サービス提供をするのであれば、そのうちの2回に買い物代行を組み込んで3~4日分×2回に調整する、という具合にバランスをとります。
加えて、米や2ℓペットボトル飲料など重量物を購入する場合は、他の食品・日用品等を次回のサービスに持ち越すなどの対応とし、この旨を契約時に説明しておきます。
また近頃は、安価な料金で購入した品物を配送してくれるスーパーもたくさんあります。米10㎏や2ℓペットボトル飲料を箱買いしたい等の要望があるなら、ヘルパーの買い物代行とあわせて店舗側の配送サービスもうまく活用しましょう。
③金銭の取り扱いに関するルール
金銭の取り扱いについて主に着目すべきなのは、「預り金の上限」と「記録方法」です。
これらのルールを事前に取り決め、お互いに共有しておくことでトラブルの芽を摘むことができます。
預り金の上限設定
訪問介護の買い物代行は、利用者が日常生活を送る上で必要な範囲に限られます。
ですので、この範囲を超える現金を預かってはいけません。
預り金の上限は、1万円を目安とするのが一般的です。利用者によっては数万円が入った財布ごと渡される場合もありますので、必ず上限金額を設定しておきましょう。
なお、訪問前に買い物をするケースでは、事業所が一時的に金銭を立て替えることとなりますが、この場合であっても同様の取り扱いとしてください。
記録方法の設定
金銭の取り扱いに関する記録の方法は、誰がその利用者の金銭管理を行っているかによって異なります。
以下に、「利用者本人」「第三者」「事業所」それぞれに応じた記録方法の一例を示します。
利用者本人が金銭管理をしている場合
本人自ら金銭管理を行っているケースでは、基本的に上記イメージ図のとおりサービス提供記録に「預り金・代金・おつり」等を記録するのみでOKです。
ただし、認知機能に若干の低下がみられたり、レシートをなくしたりする方の場合は、サービス提供記録の控えにレシートを貼り付けるなどで対応しましょう。
なお、電子記録を使っている場合はレシートを貼り付けられませんので、別途「買い物代行記入帳」を準備し利用者宅にて運用してください。
買い物代行記入帳は、以下のようなイメージのものです。
※ヘルパー会議室が作成した買い物代行記入帳を無料でダウンロードできます。
第三者が金銭管理をしている場合
第三者による金銭管理とは、認知機能の低下等により後見人や社会福祉協議会、家族などが金銭管理をしている場合を指します。
この場合であって、例えば、買い物代行用の現金を利用者から見えない場所に置いておき、ヘルパーが買い物の都度現金の出し入れを行う等のケースでは、サービス提供記録と別に上記イメージ図のような金銭出納帳を活用すると良いでしょう。
買い物代行の度に、金銭出納帳の入出金と残金を記入し、レシートを貼り付けます。そして、月毎に金銭管理者に確認してもらうことでトラブルを未然に防げるはずです。
※ヘルパー会議室が作成した金銭出納帳を無料でダウンロードできます。
事業所が金銭管理をしている場合
原則として、訪問介護事業所が利用者の生活費などを預かるのは避けてください。
市町村によっては禁止しているところもあり、基本的に金銭管理が難しい利用者に対しては、成年後見制度や社会福祉協議会の日常生活自立支援事業など公的な制度へつなげましょう。
どうしても事業所で預かる必要がある場合は、金銭預かりに関する同意書を取り交わした上で、月毎に出納帳をつけて確認を得る、など間違いのないよう管理します。
※ヘルパー会議室が作成した金銭出納帳を無料でダウンロードできます。
買い物代の実践手順・流れ
- STEP1要望の確認
- 利用者宅のストック状況を踏まえ、購入したい品物(代替品も含む)の要望を確認、メモをとる。
- 自身での在庫管理が難しい利用者の場合であって、ストックが十分にある品物を依頼された場合は「家にまだたくさん残っていますので、今すぐ買わなくても大丈夫ですよ」などと不要である旨を説明する。
- 自身での在庫管理が難しい利用者の場合であって、ストックが十分にない品物を依頼し忘れている場合は「○○がなくなりかけていますので、買っておきませんか?」などと購入が必要である旨を説明する。
- STEP2金銭の預かり
- 利用者へ想定される代金の目安を伝え、必要な現金を出してもらう。
- 利用者へ「○○円預かりますね」と伝え、現金を預かる。(預り金は、ヘルパー自身の財布に入れるのではなく、別に簡易財布などを準備しておき預かること)
- 第三者が金銭管理をしている場合であって、所定の場所に買い物代行用の現金を置いている場合は、そこから現金を出して預かる。
- STEP3買い物
- 利用者へこれから買い物へ出かける旨および買い物に要す時間の目安を伝え、指定の店舗へ出発する。(移動手段を問わず交通事故に注意すること)
- メモを確認しながら商品を選定する。
- 商品の選定時は、新鮮で清潔なものを選び、消費期限に注意する。(食中毒予防のため、生の肉類・魚介類は最後に選定し、できる限り鮮度を保つようにすること)
- 会計を済ませ、品物を袋に包んで持ち帰る。(食中毒予防のため、生の肉類・魚介類はその他の品と分けてビニール袋に包んで持ち帰ること)
- STEP4品物の確認、片付け
- 帰宅後、購入した品物を利用者に確認してもらい、所定の場所へ片付ける。(食中毒予防のため食品等は、すみやかに冷蔵庫へしまうこと)
- STEP5おつりの確認
- 品物の確認後、利用者へ「おつりは○○円です」と伝え、レシートとおつりを渡して確認してもらう。
- 第三者が金銭管理をしている場合であって、所定の場所に買い物代行用の現金を置いている場合は、そこへおつりを戻す。
- STEP6記録の記入
- サービス提供記録に預り金・代金・おつりを記入し、必要に応じて控えにレシートを貼り付ける。(金銭出納帳を作成している場合は、そちらにも記入する)
さいごに
訪問介護の買い物代行マニュアルは以上となります。
買い物代行に関してヘルパー・サービス提供責任者が押さえておくべき基本的な内容は、本マニュアルですべて網羅してますので、繰り返し読み学んでくださいね。
また、当サイト「ヘルパー会議室」では、ホームヘルパー・サービス提供責任者の初心者向けに業務マニュアルを無料で公開しています。
この機会にあわせてチェックしておきましょう。