障害福祉サービスの居宅介護で、利用者さんと一緒に家事を行っています。
この場合は身体介護で算定できるのでしょうか?
介護保険では見守り的援助だから身体介護だと思うのですが…。
今回はこんな疑問にお答えすべく、障害福祉サービスの居宅介護において、介護保険の見守り的援助(身体介護)は適用されるか否かを徹底解説します。
解説にあたって、各市町村にヘルパー会議室運営部より独自調査も行いましたので、事業運営を担う管理者やサービス提供責任者の方々は、ぜひ参考にしてください。
見守り的援助とは
見守り的援助とは、正式には「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」と言い、介護保険の訪問介護において、利用者の自立支援、ADL・IADL・QOL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等を行う身体介護サービスです。
厚生労働省通知「老計第10号」によると、
- 認知症高齢者に対してヘルパーが声かけし、食事・水分摂取を支援する
- 認知症の高齢者の方と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す
- 利用者と一緒に手助けや声かけおよび見守りしながら家事を行う
などが例示されており、これらは生活援助ではなく身体介護で算定します。
老計第10号が平成30年度の一部改訂により見守り的援助が明確化されたことで、「共に行う家事」を身体介護として取り扱うことが一般化されました。
本記事では、見守り的援助のうちのひとつ、いわゆる『共同実践(共に行う家事)』が障害福祉サービスの居宅介護においても適用されるのか?という点について解説します。
障害福祉サービスの居宅介護では認められるのか?
結論から言うと、自治体によって取り扱いが大きく異なります。
前提として、障害福祉サービスの居宅介護のサービス提供内容については、「通院等介助として認められている範囲外の移動介助や見守り的援助を除き、老計第10号と同様である」と国が回答しています。(※平成22年度全国厚生労働関係部局長会議(厚生分科会)質問・回答集より)
したがって、障害福祉サービスの居宅介護においては、全国一律的に見守り的援助が認められているわけではありません。結局のところ各自治体の方針次第ということになりますので、介護保険と同様に見守り的援助を身体介護で算定できる地域もあれば、家事援助でしか算定できない地域もあり、さまざまです。
また、精神障害者に限り身体介護での算定を認めるという地域も複数ありますので、一概に決めつけず市町村等へ確認しましょう。
各市町村の障害福祉サービスにおける見守り的援助の取り扱い例
障害福祉サービスの居宅介護における見守り的援助(家事の共同実践)について、各市町村の取り扱い状況を支給決定ガイドラインおよび電話確認等により調査しました。
ここでは調査した市町村等(一部)の例を紹介します。なお、本項に記載のない調査してほしい市町村等がありましたら、以下よりお問合せいただければヘルパー会議室運営部より確認します。お気軽にご相談ください。
※本項で紹介する内容は、ヘルパー会議室運営部が令和4年12月1日~令和5年12月23日時点で行った調査にもとづくものです。各市町村等の取り扱い方針は日々変化していきますので、本項の内容とあわせて各市町村等への確認を必ず行っていただきますようお願いいたします。
千葉県「松戸市」の場合
千葉県松戸市では、R5年4月版支給決定基準に以下の記載があるとおり、見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で支給決定しているようです。
(1)居宅介護(身体介護中心)
⑦利用者の自立生活支援の為の見守り的援助(共に行う家事)
自立支援、ADL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等。利用者の自立につなげるために、一緒に調理、掃除、洗濯等をおこない、見守り、声かけ、安全確認などを行う。松戸市サービス支給決定基準より抜粋
※なお買い物同行については、一緒に買い物に行って商品選定のアドバイスを行うだけであれば家事援助で算定、行動障害による体の支えが必要な場合、車いすによる移動が必要な場合等、身体的な介助が必要な場合のみ身体介護の対象となります。
京都府「京都市」の場合
京都府京都市では、以前は精神障害者に限り家事の共同実践を身体介護として支給決定していましたが、現在は以下のとおり、精神障害以外の障害区分についても対象となっています。
従来「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」(以下、「共同実践」と言う。)については、各保健福祉センターの精神保健福祉相談員等により必要性が認められた場合に、精神障害者に限って居宅介護の身体介護(共同実践)として支給決定を行ってきたところです。本事務連絡発出後は、身体障害者等の精神障害者以外の障害区分であっても「共同実践」の利用が可能となります。
「障害福祉サービスのおける「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」の取り扱いについて」より引用
京都市HP「京都市からの通知」
滋賀県「大津市」の場合
滋賀県大津市では、見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で支給決定しています。以前は精神障害者に限り共同実践を前提とした家事援助での支給決定を行っていたようですが、現在は、以下のとおり障害種別に関わらず家事の共同実践を身体介護と位置付けています。
1「家事の共同実践」について
利用者の自立につなげるために、安全を確保しつつ常時介助出来る状態でヘルパーが利用者と共に調理、掃除、洗濯等の家事を行う支援については「身体介護」(家事の共同実践)で支給決定する。
東京都「墨田区」の場合
東京都墨田区では、以下のとおり見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で算定することを認めておらず、必要に応じて家事援助で支給決定しているようです。
見守り的援助(自立支援、ADL・IADL・QOL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等)は居宅介護の身体介護においては対象外となります。ただし、見守り的援助の一部を区の判断(支給量決定委員会にて検討)で家事援助として認めることができます。
「墨田区障害福祉サービス請求の手引き(令和4年2月版)」より引用
東京都「立川市」の場合
東京都立川市では、見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で算定することを認めていません。(※弊社関係事業所による電話確認令和6年1月時点)
また立川市では、従来、精神障害者の家事援助をヘルパーと利用者がともに行う共同実践を基本としていましたが、令和6年3月以降、この取り扱いは廃止となりました。
【改正前(令和5年8月1日~令和6年2月29日までの取り扱い)】
「本市において、精神障害者への家事援助は、対象者の有する能力や状態に応じて、社会復帰及び自立と社会活動への参加ができるよう支援するサービスを基本とする。そのため、サービスの提供に当たっては、単に調理等の家事を代行するのではなく、調理等の日常生活能力を向上させる視点に立ち、ヘルパーが支援対象者とともに行う共同実践を家事援助の基本とするが、対象者の状態に応じて、ヘルパーが調理等の家事を代行することを妨げるものではない。」【改正後(令和6年3月1日~の取り扱い)】
「削除」「立川市障害福祉サービスガイドライン(支給決定基準)」より引用
「立川市障害福祉サービスガイドライン(支給決定基準)改正時新旧対象表」より抜粋
大阪府「大阪市」の場合
大阪府大阪市では、見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で算定することはできません。日用品の買い物同行および共に行う調理や掃除などは基本的に家事援助での支給決定および算定となります。(※弊社関係事業所より電話確認済)
大阪府「東大阪市」の場合
大阪府東大阪市では、以下のとおり精神障害者に限り見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護で支給決定しているようです。精神障害者以外は同様の支援であっても家事援助での算定となります。
Q8
精神障害者のホームヘルプサービスにおける家事支援の考え方はどうなりますか。また他の障害はどのように考えれば良いですか。回答
国のQ&A によると「一緒に家事を行うと言っても、ただ傍らに立って見守っているだけであれば家事援助になるだろうし、ヘルパーが利用者に手を添えて家事を一緒に行うということであれば身体介護とみなすことが可能である」となっています。支給決定においては対象者の状況に十分配慮し、支援目的と照らし合わせてどういう業務(関わり)が中心になるかで判断することとなります。精神障害者以外に行う家事支援は、家事援助とみなします。
※なお、買い物同行については精神障害者であっても身体介護ではなく家事援助での算定となります。
神奈川県「横浜市」の場合
神奈川県横浜市では、精神障害者(児)に限り見守り的援助(家事の共同実践)を身体介護として取り扱っているようです。(障害者総合支援法ホームヘルプ利用の手引き令和4年4月版を参照)
これには、例えば「利用者と一緒に手助けしながら行う調理、掃除、洗濯(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)」や、「洗濯物を一緒に干したりたたんだりすることにより、自立支援を促すとともに、自立支援のための見守り・声かけを行う」などが該当します。(ただし 利用者の体調不良などにより、ヘルパーが単独で行う場合は家事援助で算定)
大阪府「堺市」の場合
大阪府堺市の場合は、見守り的援助とは異なる「複合援助」という特殊な支給決定の方法をとっています。
精神障害者に限り、自立した生活を送れるよう買い物、調理、洗濯、掃除などをヘルパーと一緒に行うことを支給決定の基本とし、身体介護と家事援助を同時に行うサービスとして「身体介護」「家事援助」を概ね半々で支給量が決定されます。(「計画相談支援・障害児相談支援手引書」第3.1版を参照)
加えて、算定・請求方法についても、例えば1回1.0時間のサービスであれば「身体介護0.5h」と「家事援助0.5h」というように半々で算定することになります。
※なお精神障害者以外の障害区分の方は、家事援助での報酬算定となります。例えば買い物同行であれば、精神障害者の場合は複合援助として身体介護・家事援助の半々で算定、精神障害者以外は家事援助での算定です。
なぜ「精神障害者」に限るとしている市町村があるのか?
これまで解説してきた中で、精神障害者に限り共同実践を身体介護としている市町村等がいくつかありました。
なんで精神障害者だけ?どういうこと?
と思われた方もいるかと思いますので、少し触れておきます。
なぜ「精神障害者」に限るとしている市町村等があるのか?というと、これには障害福祉制度上の歴史的な背景が関係しています。
現行の障害者総合支援法(平成25年~現在)や障害者自立支援法(平成18年~25年)下における居宅介護では、身体・知的・精神の3障害すべてを対象としていますが、支援費制度(平成15年~18年)における居宅介護では精神障害者は対象外とされていました。
もちろん、支援費制度の対象外だからといって精神障害者へのホームヘルプサービスが行われていなかったわけではなく、精神保健福祉法下の精神障害者福祉制度により実施されていました。そして、この精神障害者福祉制度による居宅介護において、実は、家事の共同実践を身体介護として取り扱うのが一般的だったのです。
そんな中、支援費制度が障害者自立支援法へ移行し、事業体系が再編(精神障害者も対象となった)されたことに伴い、市町村ごとの精神障害者に対する家事の共同実践の支給決定方針も変わることになります。
- ある市町村では、自立支援法へ移行したタイミングで一律的に家事援助に支給決定を変更
- ある市町村では、従来のまま精神障害者への家事の共同実践は身体介護で支給決定
というように二分されました。
こうした歴史的な流れがあって、先の市町村ごとの取り扱い例のとおり、大阪市では一律的に家事援助だけど隣の東大阪市では身体介護という支給決定の地域差が発生することとなったわけです。
また、身体障害者や知的障害者の多くは、身体的な自立レベルがある程度の段階で止まってしまいます。対して精神障害者は、ADLやIADLといった生活行為をヘルパーと一緒に行うことで、自ら行えるようになる可能性があります。(もちろん人によりますが)
なので、精神障害者に限ってはヘルパーとの共同実践を前提とした支給決定を行っている市町村があるわけですね。
ちなみに余談ですが、近ごろは介護保険の訪問介護における老計第10号を参考に、精神障害に限らず3障害すべての方を対象として、家事の共同実践を身体介護と取り扱う市町村が増えてきている印象を受けます。
最後に
今回は、障害福祉サービスにおける居宅介護の見守り的援助(共同実践)について解説しました。
共同実践を身体介護で算定できる地域では、事業経営上のメリットがかなりあり、積極的に活用したいところです。とはいえ、本記事でも述べたとおり市町村等により取り扱いが大きく異なりますので必ず市町村等へ確認するようにしましょう。(必要であれば当サイト運営部からも確認をとりますのでお気軽にご相談ください)
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