訪問介護では、利用者の在宅生活を支えるために、日々さまざまな介護サービスを提供しています。
今回は、その中のひとつ「身体整容」について取り上げ、具体的なサービス内容や留意点をわかりやすく解説します。あわせて項目ごとに分けて実施方法の基本もあわせて説明していますので、ぜひ初心者ヘルパーの方々は参考にしてください。
本記事は、介護サービス情報公表制度により求められている「入浴介助・清拭・整容マニュアル」の一部としても活用することができます。
訪問介護の身体整容とは
訪問介護の身体整容とは、その名のとおり利用者の身だしなみを整える支援を指し、日常生活を送る上で必要な爪切りや髭剃りなどをホームヘルパーが実施するサービスです。
訪問介護のできることを示した通知「老計第10号」によると、身体整容は身体介護の区分に位置づけられており、具体的な行為として次の項目があげられています。
- 手足の爪切り
- 耳そうじ
- 髭の手入れ
- 髪の手入れ
- 簡単な化粧
実際の介護現場では、基本的に身体整容のみを目的として訪問することはありません。
例えば、通院やデイサービス等への外出前に髪を梳かしたり、入浴や清拭等の流れで爪切りや髭剃りを行ったり、という具合にその他の身体介護などと組み合わせて実施するのが一般的です。
整容への意識は、生活意欲の低下を示すサイン
身体整容は、感染症予防など衛生面において必要なのはもちろんのこと、生活意欲を高め、社会参加を促進することにもつながるとても重要なサービスです。
身体機能の低下や疾患などによりベッドや室内での生活が増えると、それに伴って社会との関わりが減ります。すると、まず疎かになっていくのが、この「整容」という行為です。
みなさんは、毎日当たり前のように整容を行っているかと思いますが、これは外へ出て他者と関わりを持つ機会が頻繁にあるからです。人は誰にも会わないのに伸びた髭を剃ろうと思わないし、髪をとかして身なりをきれいにしようと思いません。
整容に対する意識は、その利用者の生活意欲の低下を示すサインになると言えます。
ですので、ホームヘルパーはサービス提供時に利用者の様子に変化がないかをしっかり観察し、疎かになっているのであれば、習慣的に整容を実施できるよう促していくことが大切です。
それにより、「○○に行きたい」「○○さんと話したい」と外出やコミュニケーションの意欲が高まり、結果としてQOL(生活の質)の向上につながるのです。
寝たきりの利用者など外出が難しい方であっても、身だしなみを整えることは心身のリフレッシュになります。そういった意味でも整容は積極的に取り入れていきたいサービスですね。
身体整容3つの留意点
訪問介護の身体整容を実施するにあたっては、以下の3つの留意します。
- 自立支援の視点
- 身体整容の範囲
- 危険予測・事故の防止
留意点①:自立支援の視点
介護保険の基本理念は「自立支援」です。
利用者自身でできることは自ら行ってもらい、できないことのみを支援するのが基本であり、身体整容においても自立支援の観点からサービス提供を行わなければなりません。
とはいえ、利用者によって身体機能などはさまざまですので、無理をさせないことも必要です。
- 「手の爪切りはできるが、足の爪切りは身体機能的に難しい」
- 「上肢の機能的に髪を結ぶことはできないが、ブラシで梳かすことはできる」
など個々のアセスメントをきちんと行い、その方に適した方法を検討・実施しましょう。
留意点②:身体整容の範囲
訪問介護の身体整容は、利用者から依頼されたからといってなんでも実施できるわけではありません。
あくまで日常行為としての身体整容に限られ、加えて、爪切りや耳そうじについては内容によって医行為に該当する可能性があるため注意が必要です。
爪切り |
爪そのものまたは周囲に異常がない場合の爪切りや爪やすりに限られます。爪に異常がある場合や爪の周囲に化膿や炎症などがある方や、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要な方に爪切りは医行為に該当するため実施できません。 |
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耳そうじ |
耳かきや綿棒等による一般的な耳そうじはできますが、耳垢が耳の穴をふさいでしまうほどの状態(耳垢塞栓)の方の場合は医行為に該当する可能性があるため実施できません。 |
髭剃り |
電気シェーバーによる髭剃りは実施できますが、カミソリを用いた髭剃りは理容師のみに認められるため原則として行えません。(T字カミソリについては市町村等により認められている場合あり) |
髪の手入れ |
ブラシで髪を梳かす、ヘアピンで髪をとめる、ヘアゴムで髪を結ぶ、などは認められますが、白髪染め等については実施できません。 |
化粧 |
化粧の好みや程度に個人差があるため判断が難しいですが、数分程度で済むような簡単な化粧に限られます。 |
留意点③:危険予測・事故の防止
訪問介護の身体整容は、単に整容行為をホームヘルパーが実施するだけでなく、整容を実施する場所(鏡台等)への移動や物品の準備・片付けまでを含むサービスです。
移動時や座位時の転倒、床に落ちた物品を踏むなどのケガ、といった事故を起こさないよう危険予測を十分に行う必要があります。また、高齢者は皮膚が弱く、爪も脆くなりやすい傾向にあります。髭剃りや爪切りの際には、皮膚を傷つけてしまわないよう細心の注意を払って実施しましょう。
【項目別】訪問介護における身体整容の実施方法
ここでは、訪問介護における身体整容の実施方法やポイントを各項目ごとに分けて解説していきます。
手足の爪切り
- 爪切り
- 爪やすり
爪切りは、入浴介助の後など爪がやわらかくなっているときがベストなタイミングです。難しい場合は、ホットタオルを準備し、温めてから実施すると良いでしょう。
丸みを持たせ左右対称になるように少しづつ爪を切っていきます。深爪に注意し、爪の白い部分を少し残して切るのがポイントです。なお、爪の厚みや色、形などに異常やトラブルが見られた場合は、サービス提供責任者に報告してください。
耳そうじ
- 耳かき
- 綿棒
- ティッシュ
耳かきや綿棒などの物品は、利用者の希望や状態に応じて準備します。
耳かきは、耳の入口から1センチ程度の範囲をやさしく掃除するのが基本です。
耳の奥の耳垢は自然に排出されますので、耳かきや綿棒を耳の奥まで入れて掃除する必要はありません。鼓膜を傷つけたり、耳垢を奥に押し込んでしまう場合もありますので注意しておきましょう。
髭剃り
- 電気シェーバー
- ローション
- 保湿液など
髭剃りを実施する前にホットタオル等で顔を温め、ローションを塗布します。
基本的に電気シェーバーでの髭剃りは、「逆剃り」が基本です。下から上に動かして剃っていきます。電気シェーバーを肌に強く押し当てたり、何度も往復して剃ったりすると肌を傷つけてしまいますので注意しましょう。
ひととおり髭を剃り終えたら、肌が乾燥しないように化粧水などを塗布して保湿します。
整髪
- 櫛やブラシ
- ヘアゴム
- ヘアピン
- 手鏡(鏡台がない、または移動できない場合)
髪は、絡まりやすい毛先から梳かすのが基本です。
櫛やブラシなどを使ってまずは毛先から梳かし、つづいて根元と毛先の中間部分、最後に根元を梳かしていきます。強引に引っ張るように梳かすと、髪が抜けたり傷んだりしてしまいますので注意しましょう。
その他、髪を結ぶ・結ばない、結ぶのであればヘアゴムやヘアピンなどどの物品を使うのかを相談し、本人の意向を確認しながら整えます。
化粧
- 各種メイク道具
- 化粧水・乳液など
- 手鏡(鏡台がない、または移動できない場合)
利用者の意向を確認しながら、過度にならない程度にメイクを行います。
すべてのケアに言えることですが、化粧は特にこだわりや好みに個人差がある行為ですので、できるかぎり本人自ら行ってもらうと良いでしょう。
さいごに:ひとり一人の倫理・法令を守ろうという意識を高めよう
訪問介護の身体整容マニュアルは以上となります。
身体整容は、利用者が心身ともに快適な生活を送るために欠かすことができないサービスです。利用者の状態や希望に合わせた適切な身体整容を行うことで、QOLの向上につながります。本マニュアルで紹介した実施方法や留意点などを参考に、利用者に寄り添った丁寧な身体整容を心がけましょう。
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